リン

みなさんこんにちは、『リンが薦める貴女にぴったりの物語』が始まりました

リン

本のプレゼンテーターは、みなさんお馴染みのリン=ドラーヴェです

リン

この番組もいよいよ第4回
本当はこれからも、みなさんに本の素晴らしさを紹介したかったのですが、最終回を迎えちゃいました

リン

せっかくの最後の収録なので、今日のゲストさんにはとびっきりの一冊をご紹介したいと思います

リン

でも、誰がゲストに来るんだろう………

リン

うふふっ、知らされてないんですが、とっても楽しみです

リン

あ、そうそう、もう一つ

リン

最後の収録は、わたしがひとりで番組を進めることになりました
だから、いつもより落ち着いた雰囲気で番組を進めていきますね

リン

シンクさんも褒めてくれるかな……………うふふっ

リン

それじゃ、ゲストさんを呼んでみたいと思います、この方です
どうぞ

パチパチパチ

メティ

………来たわよ

リン

あれ、メティちゃん!?
も、もしかして、今日のゲストってメティちゃんだったの?

メティ

いいえ、違うわ

リン

え、でも、アシスタントは辞めるって言ってたよね?

メティ

貴女がいらないって言ったんじゃないっ!

リン

だってそれは…………
メティちゃんはどんなお話しててもお金の話に持っていっちゃうからで………

メティ

あら、それが理由だったの?
まぁ今となってはどうでもいいわ

メティ

わたくしが今日ここへ来たのは、使者として来ただけよ

リン

使者?

メティ

ええそうよ、被害者の会の使者としてね

リン

ひ、被害者の会?
それって何の被害者なの?

メティ

心当たりはないのかしら?

リン

うーん、ないんだけど…………教えてくれないの?

メティ

わたくしはあくまで使者だもの、公平な立場から番組の最後を見届けにきただけよ

リン

………よくわかんないけど
その言い方だと番組の内容がもう読書推進番組じゃなくなってるよね

メティ

第1回から読書推進番組なんてやれてないわよ……

リン

え?

メティ

さて、今回のゲスト………
被害者の会が選んだ、貴女に対抗しうるゲストをお呼びするわ
この方です、どうぞ

パチパチパチ

コメット

どもども、第1回目で来て欲しくないと言われたのにやって来ました、コメット=メテオ

リン

ふぇ!? 今日のお客さんはコメットちゃんなの?

コメット

そう
ドラゴンを倒す勇者として選ばれた

リン

も、もしかしてドラゴンってわたしのこと?

コメット

リン以外の誰でもない、つまりはラスボス

リン

ど、どうして、わたしがコメットちゃんに倒されないといけないの!?

コメット

それには深い深い事情

リン

深い事情?

コメット

そう、わたしは闇の組織に雇われた

リン

それって被害者の会と関係あるの?

コメット

ふふっ、クライアントの情報は話せない

リン

むぅーーー

メティ

さて、コメットさんはどんな本が読みたいのかしら?

コメット

折角だから、今回はリンの好きなお話を聞かせて欲しい

リン

え、わたしの好きな物語でいいの?

コメット

問題ない、わたしが読みたい本は大抵は読んだ
なので、違うものが読みたい気分

リン

そっか、それじゃ、ファンタジーなんだけどいいかな

コメット

ふむふむ、ファンタジーですか
子どもに読み聞かせるのに丁度いい

リン

うん、女の子が喜ぶような作品だと思うよ

メティ

お金の方がよろこ―――いえ、何でもないわ

リン

あのね、これは『病弱な姫と優しい王子』ってお話でね

コメット

ほぅ、病弱とはまた聞き捨てならない

メティ

そこは聞き捨てて上げなさい


『病弱な姫と優しい王子』

リン

ある魔物の国に、とてもとても美しい姫がおりました

リン

姫はあまりにも美しく魅力的で、他国の王族、有力貴族、大商人たちが『ぜひ嫁に』とこぞって手を上げるほどでした。

リン

様々な金品を持ち寄り、甘い言葉で誘惑する立候補者たちでしたが、姫は頑なに拒み続けていました

リン

国王も、権力、財力、全てを手にしているため、せめて結婚ぐらいは娘に選ばせるべきだと、姫の伴侶を探す舞踏会を開くことにしました

メティ

一番、お金を持ってきたものと結婚すればいいんじゃない?

コメット

おやおや、結局、お金の話ですか……
まったくこの守銭奴は懲りない

リン

そこに現れたのは、遠い人間の国の王子様
魔物との争いが続く最中、危険を省みず、姫の前に現れたのです

リン

魔物たちは王子を見て、デザートが届いたとケラケラと笑いました

リン

しかし、王子は怯えることなく、堂々とした振る舞いで姫を見つめていました

リン

それから、舞踏会が始まると、多くの魔物たちが姫をダンスに誘おうと手を差し出します

コメット

おお、腕の抜けるような展開

メティ

それは貴女だけよ

リン

姫を囲む多くの魔物たち、しかし、姫が選んだのは人間の王子でした

リン

姫は王子に問いかけます

リン

『貴方は、どうして危険を冒し、わたしの元へと参ったのですか?』

リン

王子は悠然と答えます

リン

『魔物と人が手を取り合えるのであればと、ここに参ったのですが』

リン

『あなたの噂を耳にし、ぜひ、一目……
我がままを言わせていただけるのでしたら、一曲踊りたいと思った次第です』

リン

姫は優雅に笑いながら『それではその願い、叶えさせてください』と、王子の手を取りました

コメット

うぅ……とっても良い話

メティ

感動するのが早いわよ

リン

そして2人は、種族という大きな壁を、息のあった素晴らしいワルツで、超えることができたのです

リン

見ているものはみな拍手で称え
王もその姿を見ていたく感動し、人間と魔物の架け橋になるようにと、2人の結婚を認めました

コメット

おやおや、雲行きが怪しいですね

メティ

だから、早いわよ

リン

しかし、その光景をつまらなそうに見ている人間がひとり、王子を遠くから見守っていた『心ない魔女』でした

リン

心ない魔女は、その婚約を破棄させるべく、眠る姫の寝室へと入り、恐ろしい呪いをかけました

リン

『呪いをかけた。解除して欲しくば、王子と別れるべき』

メティ

あら、どこかの誰かさんと話し方が似てるわね

コメット

ぜ、全然、似てねーぞこら

メティ

動揺してるわね

リン

『いやです、わたしはシン……王子さまと別れたくありません』

リン

『なら、死ね』

コメット

なら、死ね

メティ

ほら、そっくりじゃない

リン

そうして、心ない魔女は姫に世にも恐ろしい呪いをかけました

リン

その呪いは、相手を思えば思うほど、愛が深まるごとに、身体を締め上げ、やがては死に至る呪いでした

コメット

どうやら、これはメティには効かない呪い

メティ

お金への愛はあるわ!

リン

呪いをかけられた姫は、日に日に弱っていき、病床に伏すと
その度に王子のことを思い、愛が募っては命を削られていきました。

リン

結婚の準備のために、祖国へと帰っていた王子でしたが
その話を聞き、至急、駆けつけると付きっ切りで姫の看病をしました

コメット

くしゃみ連発で王子が燃える

メティ

……燃えるような愛ね

リン

ですが、良くなるどころか、悪くなる一方です

リン

王子は姫に何もしてやれないことを悔いました
そんな王子の姿に姫は深い愛を感じるともに、申し訳ない気持ちでいっぱいになり
心身ともに疲弊させてしまいました

リン

そこへ、もう一度、魔女がやってきて言いました

リン

『王子、その女と別れるべき
そして、わたしのものになれば姫の命は助ける』

コメット

ふむ、ここまでくるといっそ感情移入できる

メティ

ふふっ、心ない魔女って表現はあながち間違ってないわ

リン

『俺は、世界で一番この人を愛しているんだ』

リン

『そう、残念。そして、死ね』

リン

呪いは一気に強まり、姫の命を奪おうとしました

コメット

魔女、姫なんてやってしまえっ!

メティ

感情移入しすぎよ

リン

苦しむ姫を見て
王子は、去ろうとしていた魔女に言いました

リン

『くっ………僕は君のものになる、だから、姫を助けて欲しい』

リン

『気に食わない
わたしに愛してると言え、言うのです』

メティ

……リンさんも物語の中に入り込んでるわね

リン

王子がその言葉を口にしようとしたそのとき、姫は言いました

リン

『王子様、わたしにもわがままを言わせてください
せめて、この焼きつくようなあなたへの愛を、この胸に抱いたまま天寿を真っ当したいのです』

コメット

焼きつくような愛のせいで、王子はきっと真っ黒焦げ

メティ

王子が黒焦げなら、心ない魔女も諦めるわね

リン

『……姫
ならば、わたしはこの生涯において、愛する異性をあなただけだと誓います』

リン

『あぁ、王子様、わたしだけの王子様……』

リン

『悔しいがわたしの負け
2人の愛に、太刀打ちできそうもない』

コメット

まだ、諦めるには早すぎ、ここからの大逆転が――

リン

そういって魔女は呪いを解き、去っていきました

コメット

残念………

リン

こうして姫は再び元気を取り戻し、王子とともに、魔物と人間が共存できる素晴らしい国を作りました

リン

おしまい

リン

どうかな、とっても素敵なお話だよね?

コメット

ふふふっ、これだから素人は困る

リン

し、素人……?
どういうことかな、コメットちゃん

コメット

これは現代的にアレンジされたお話………
元になった話はもっと古くからある伝承の一つ

メティ

あら、それなら、元の話はどういうお話かしら?

コメット

元になった話は姫はとても悪女として知られ、王子の精欲しさに政略結婚

コメット

病気のふりをして、毎日毎日、絞れるだけの精を絞った結果、王子は魔女の力を借りて、人間の国へと命からがら逃亡

コメット

でも、姫は王子を追って、挙兵した…………という話がルーツ

コメット

結論、姫は腹黒い

リン

うふふ、そんな話があるんだ………
でも、夢がないよ、コメットちゃん

メティ

まるで、心ない魔女のよう―――って、言いたいのかしら?

リン

ち、違います!

コメット

でも、リンは美しい姫で間違いない

リン

ほんとっ!
うふふっ、嬉しい

コメット

もちろん、原文の方

リン

…………

コメット

…………

メティ

さて、番組を締めようかしら

リン

そうだね……
って、結局、メティちゃんが司会者に戻るんだ……

メティ

うふふっ、やっぱりわたくしが必要でしょう?

リン

そうかな……

コメット

ところで、リン
この4回の放送はどうだった?

リン

うーん、本の面白さを伝えられたかなぁ

コメット

そうですか、そうですか
それでは視聴者のみなさん、ご視聴ありがとうございました

メティ

どうして貴女が仕切っているのか、わからないけど…………ごきげんよう

リン

うふふっ、また、会いましょう

番組終了

楽屋
『被害者の会』

シレーネ

これでわたしたちの溜飲も下がって、すっきりしたわ

ビビ

くくっ、あたしとしては面白いものを見れたから、何でもいいがな

キューテ

ところで、あの物語にはそんな裏話なんてあったんですか?

コメット

ない、あれはわたしが咄嗟に思いついた作り話

キューテ

道理で聞いたことないわけです

ビビ

あれを瞬時に思いつくとはさすがだな、コメット

コメット

あのお話事態、最近作られた子ども向けの童話

コメット

それを真に受けるリンは、やっぱり純情なところのある憂いやつよ、ふっふっふ

シレーネ

…………

ビビ

…………

キューテ

…………

コメット

おや、皆どうした―――

リン

ねぇ…………みんな楽屋で何しているの?

コメット

…………

リン

みなさんこんにちは、リン=ドラーヴェです

リン

もうすっかりお馴染みですね、『リンが薦める貴女にぴったりの物語』の時間がやってきました

リン

この番組は、ゲストのみなさんにピッタリな本を紹介していこうという読書推進番組です

リン

気付けば、もう3回目になりますね………
さすがに、3回も収録すると慣れちゃいますね

リン

なので、今回からはわたしだけで進行していこうかな……と思っています

リン

だからメティちゃん、今日はもう帰って大丈夫だよ

メティ

あら、そう?
ひとりで頑張りなさいね

リン

うん、お疲れさまでした

メティ

…………

リン

…………

メティ

……って、止めなさいよ!
本当に帰ってもいいのかしら?

リン

え? 本当に帰るんじゃないの?
もう、わたしはひとりでも大丈夫だよ

メティ

帰らないわよ!
わたくしがいなくて番組が成立するわけないでしょう!

リン

でも、メティさんって相づち打ってる印象しかないから………

メティ

それが大事なのよ!
視聴者からも『メティ様の相づちが最高です』って感想が届いてるくらいよ!

リン

それはさすが嘘だよね?

メティ

……ほ、本当よ、もうたくさん来てるわ!
わたくしの相づちが聞きたいって!

リン

じーーー

メティ

…………っ

リン

メティちゃんの額から脂汗出てるけど?

メティ

で、出てないわ!
そんなことより、ゲストを呼ぶわよ! ゲストを!

リン

まだ前回の感想を言ってないけど………いいの?
………やっぱりわたしが進行した方がいいんじゃないかな

メティ

いいわよ、そんなの!
どうせ、前々回と同じでしょう!?

リン

そうだね、前回も前々回もゲストさんにぴったりの一冊を紹介できました

メティ

…………とびっきりの一殺いっさつの間違いじゃないかしら?

リン

それって、どういうことかな?

メティ

なんでもないわ
それじゃ、ゲストを呼ぶわよ

リン

………結局、メティちゃんが進行するだね

パチパチパチ

キューテ

みなさん、こんにちは、今回のゲストのキューテ=オトカネです
お手柔らかにお願いしますね、リンさん

リン

え、今回のゲストはキューテ先生なんですか?

キューテ

はい、意外でしたか?

リン

うーん、そうですね、正直に言えば意外ですね
キューテ先生って読書家ですから、わたしがわざわざ紹介する必要ってありませんし

キューテ

たしかに仕事柄読書はたくさんしますが、学術書や魔導書ばかりで普通の本を読めていないんですよ

キューテ

だから、今回はぜひ、リンさんにぴったりの物語を紹介してもらいたいですね

リン

でも、普段から本をよく読む方に紹介するのってすごく気を使っちゃいます………
ましてや、相手はキューテ先生ですから

キューテ

ふふっ、大丈夫ですよ
わたしはリンさんが紹介してくれる本が読みたいだけですから

リン

……本当にいいんですか?

キューテ

はい
ぜひ、わたしにぴったりなお話を紹介してください

メティ

その言葉………後悔しても知らないわよ?

キューテ

………大丈夫です、覚悟は出来てます

リン

覚悟?
何のことかですか?

メティ

取るに足らないことよ
それより、早く本の紹介をしなさい

リン

うん………
それで、先生はどんな本が読みたいですか?

キューテ

そうですね………
人生の教訓になるような……ユーモアのある説話をお願いしたいですね

リン

説話ですか?
それなら、わたしが一押しするのは東方の説話集『今昔説話拾遺』こんじゃくせつわしゅういがお薦めです

キューテ

『今昔説話拾遺』ですか…………
それならたしか実家に置いてあったように思いますが、読んだことはありませんね

リン

それなら丁度よかったです
キューテ先生にピッタリの説話がありますから、実家に帰ったときはぜひ読んでみてください

キューテ

うふふっ、それはぜひとも読んでみたいものですね
どんなお話があるんですか?

リン

いろいろありますが、特にわたしが好きなのは『円満長者』っていうお話で

リン

裕福だけど意地悪で身寄りのない長者が死ぬ間際に、自分の人生に悔いて、貧しい子どもたちにお金を配り、笑顔にしていく物語なんですけど、すごくいいですよ

メティ

あら、笑顔のためだけにお金を差し出すなんて頭が悪いわね
滑稽この上ないわ、ふふっ、おーほっほっほ、ぼふぉ

メティ

ごふぉ、ぶほぉ、けほけほ…………

キューテ

メティさんに罰が当たったようですね

メティ

違うわ、ちょっとむせただけよ

キューテ

それで、わたしにぴったりというのはどのお話ですか?

リン

はい、他にも面白い話がたくさんあるんですが、キューテ先生にぴったりな説話を一つ紹介します

キューテ

ぜひ、お願いします

リン

『説法法師』

キューテ

あの、説教教師って聞こえたんですが………

メティ

気のせいよ
あと、このぐらいで一々騒いでいたら心が持たないわ

キューテ

さすがに大丈夫だと………思います


『説教法師』

リン

むかーし、むかし
人間の国に頌栄しょうえいという『説法法師』と呼ばれるほど説法に長けた徳の高い僧侶がいました

リン

頌栄は幼くして出家し、青年になる頃には国中から弟子が集まるほど優秀な人でした

リン

そんな彼にまつわる逸話の紹介していきます

リン

頌栄がまだ幼く寺院に入って間もない頃のこと
頌栄は師の言いつけを破り、お供え物のお団子を食べてしまいました

リン

お団子がなくなっていることに気付いた師は、頌栄を呼び出し、神前に正座させました

キューテ

やっぱり、黙って食べるのはよくありませんね
こういうときはちゃんと叱ってあげないと

メティ

あら、説教教師のお話かしら?

キューテ

違いますっ!

リン

師は『今すぐ神に謝罪しなさい』と言いましたが、頌栄は頭を下げず、師に言いました

リン

『お師さまは神の教えを説くときに”わが身を切りて、飢えあるものに捧げよ”とわたしに常々言っていました』

リン

『ですから、神はその教え通り空腹に苦しむわたしに”お団子を食べよ”と言ってくださいました』

リン

『謝るのではなく、礼を言うのが道理かと思います

メティ

ただの屁理屈じゃない

リン

そう言って頌栄は神前に感謝の言葉を述べました

リン

師は歳の割りに素晴らしい弁明であると感動し、頌栄を後継者として育てあげたそうです

キューテ

ここまでは『僧侶と小僧譚』と呼ばれるものですね

リン

他にも多くの逸話がありますが、中でも有名なのは頌栄が説法法師と呼ばれるようになったきっかけのお話です

リン

頌栄が青年の頃、アルケニーという魔物が人間に悪さばかり働いていたときのことです

リン

その噂を聞きつけた頌栄は、魔物に一つ道理でも説き、悔い改めさせるかと酒を片手にアルケニーの下に向かいました

キューテ

アルケニー………どこかで聞いたことがあるような……

リン

そして、頌栄はアルケニーの住まう隠れ家へ赴き、魔物相手に臆することなく、二日にも及ぶ長い説法を語り続けたそうです

メティ

二日はすごいわね………わたくしなら説法が終わったあと金貨100枚はいただくわ

キューテ

ふ、吹っかけすぎですよ
そもそも、そんなに徳の高い僧侶様なら、むしろこちらがお金を払わないといけませんね

メティ

貴女、頭は大丈夫かしら?

キューテ

それはこっちのセリフです

リン

アルケニーは頌栄から手渡された酒を飲みながら説法に耳を貸し、2日という長い時間、説法を聞きながら過ごしました

リン

ようやく説法が終わると、アルケニーはたった一言、こう言い残して、魔物の国へ帰っていきました

リン

『おぬしの話はつまらん!』

キューテ

………今、胸にチクリと刺さったんですが……

メティ

あら、チクリで済んでよかったわね

リン

その日を境に、頌栄は魔物すら追い返す説法の持ち主として、『説法法師』と呼ばれるようになったのです

リン

しかし、歳を重ねるごとに説法は説教へと変わり、弟子たちに口うるさく説教をたれるようになり、やがて、『説教法師』と揶揄されるようになってしまいました

リン

そうして、認知症の始まった頃には誰であろうと説教をし、反論しようものなら口汚く罵り、名声もついに地の底へとついてしまったのです

キューテ

老いると、頭が硬くなってしまうのは仕方のないことですよ

メティ

貴女もそうならないように気をつけなさい

キューテ

大丈夫です…………恐らく

リン

そんなあるとき、頌栄の名が地に落ちつつある現状を憂い、神様は僧侶の魂を自らの元へと連れて行く決心をしました

リン

ある夜、頌栄が眠っていると神様が枕元に立ち、こう言いました

リン

『高名ある説法法師”頌栄”よ、今生に別れを告げ、聖霊となって我に仕えぬか?』

リン

頌栄は瞼に伝わる神々しい輝きに目を見開き、慌てて身体を起こして『お主は誰だ?』と尋ねました

メティ

急に神が枕元に立ったんだもの、そうなるわね

リン

『私は―――神だ』

リン

『なるほど、阿呆というわけか。いやもう誰でも構うまい。夜分に失礼ではないか。ぬしは常識というものを心得てはおらんようだな』

リン

『ふん、見ればなにやら眩しく見える。さては、おぬし、魔物の類であるな?』

リン

『では、一つ、貴様のような輩に、説法を聞かせてしんぜよう。なに、頭の悪そうな貴様でもわかるような徳のある話だ』

リン

こうして、神様に道理を説こうとした矢先、神様はたった一言だけを言い残し、去っていきました

リン

『地獄に落ちろ』

メティ

神から直接言われるなんてなかなかないわよ

キューテ

口は災いの元……ですね

リン

そういって神はその場から消え去ってしまいました

リン

『阿呆に阿呆と言われた面持ちだ、不愉快である』と頌栄は布団に戻ります

リン

そののち、頌栄の寺院は潰れ、僧侶の姿を見たものはいません

リン

しかし、徳の高い僧侶が地獄絵図を書くとき、どういうわけか説法法師が登場し、地獄で人に口うるさく説教をしている姿が描かれるそうです

リン

口は災いのもと、説教のしすぎはほどほどに―――

リン

というお話なんですが、どうでしたか、キューテ先生

キューテ

………えーと、どうしてこれがわたしにぴったしなんですか………?

リン

わたしはこのお話が先生に合うと思ったんですが………
ご不満ですか?

キューテ

不満と呼べるような感情じゃありませんね……

リン

でも、こういうのは聞き手が感じたことがそのまま教訓になると思いますよ

キューテ

つまり、この胸のうちにある気持ちこそ教訓ですか?

リン

えーと、そうなりますね
でも先生にピッタリの物語ですから、きっと身になるはずです

キューテ

………いろいろ考えさせられる物語でした

リン

うふふ、キューテ先生にも喜んでもらえたようで、とっても嬉しいです

メティ

………ただただ腹黒いわね

リン

さて、今回も無事、ゲストのキューテ先生にぴったりの物語を紹介することができました

リン

実家に帰ったときは、ぜひ読んでみてください

キューテ

薦められたからには読みますよ
…………気はあまり進みませんが

メティ

今回もリンさんの腹黒いところが際立ってたわね

リン

え、メティちゃん?
今、何て言ったのかな………?

メティ

そ、それじゃ、第4回もよろしくお願いするわよ!

メティ

ごきげんよう

キューテ

さようなら

リン

……次回も会いましょうね、さよなら

番組終了

緊急特別企画
『リン=ドラーヴェ被害者の会』

メティ

被害者の会のメンバーは、これで全員かしら?

シレーネ

ええ、全員いるわ

ビビ

くくっ、また被害者の会だなんて少しオーバー過ぎやしないか?

キューテ

そうですよ…………まぁ、被害者と言えなくもありませんが……

メティ

そうは言っても、貴女たちはリンさんの毒にやられていたでしょう?

シレーネ

そうよ、しかも間接的に攻撃してくるのがまた………

ビビ

たしかにあれはやりづらいな

キューテ

シンクさんのこととなると、目の色も変わりますし………

メティ

次回の最終回にはぜひ、リンさんにひと泡吹かせられるゲストを呼びたいんだけど、誰を送り込むべきかしら?

ビビ

そりゃ、あいつしかいないな

シレーネ

ええ、あの子しかいないわね

キューテ

そうですね、あの方しかいませんね

メティ

うふふっ、毒を以て毒を制すってことね

リン

みなさん、こんにちは、リン=ドラーヴェです

リン

『リンが薦める貴女にぴったりの物語』のお時間がやってまいりました

リン

この番組は、ゲストのみなさんにピッタリな本を紹介していこうという読書推進番組です

リン

まだ2回目で慣れなくて、やっぱり、緊張しちゃいますね………

リン

なので、わたしのアシスタントと進行をメティちゃんにお願いしています、どうぞ

メティ

リンさんのサポートを務めさせていただきます、わたくしメティ=エリファスです
どうかよろしくお願いいたします

リン

あれ?
メティちゃん、いつもと様子が………?

メティ

前回の登場に苦情が殺到したの………
わたくしの高笑いが番組に合わないらしいわ

リン

あっ、そうなんだ
うん、でもわたしも来るんじゃないかと思ってたの

メティ

ふんっ、だったら言えばいいでしょう!
わたくしの高笑いはこの番組にそぐわないって!

リン

ええっ! ち、違うよメティちゃん!
わたしが言いたいのはそういうことじゃなくて………そう、例えるなら図書館で静かにすることと一緒で……

メティ

だからそれがうるさいってことでしょう!!

リン

う、うん………そうなるのかな?
………それに今も

メティ

……………わたくし、この番組だけは裏方に徹した方がいいかもしれないわね

リン

だ、だめ!
メティちゃんがいてくれないとわたし、緊張で何も喋れないよ

メティ

貴女の図太い神経なら何の問題もないわよ
むしろ、わたくしの方が神経が磨り減ってるわ………

リン

と、とにかく、引き続きアシスタントはメティちゃんでお願いします!

メティ

仕方ないわね……………
さて、放送第一回の感触はどうだったかしら?

リン

前回は無事、シレーネちゃんにピッタリのお話、『オーデン大公』を紹介することができました

リン

うふふ、シレーネちゃんもちゃーんと喜んでくれてたし、大成功だったよね

メティ

大成功って………
そのピッタリ過ぎたのがよくなかったわよ

リン

何か言ったメティちゃん?

メティ

いいえ何も言ってないわ

リン

それならいいんだけど、何か不満とかあるんだったら気軽に言ってね
わたしも改善できるところは改善するから

メティ

…………さぁ、今回のゲストはこの方よ、どうぞ

パチパチパチ

ビビ

ビビ=クィン=アナフィラキシー、ご招待賜り恐悦至極

リン

あっ、今日のゲストはビビちゃんなんだ

ふふ、どんな本を紹介しようかな?

ビビ

くくっ、お手柔らかに頼むよ、リン

メティ

ビビさんって、読書とかするのかしら?

ビビ

以前は、まったくしなかったが今は時々読むな

メティ

あら、意外ね
だから、出演を快諾してくれたのかしら?

ビビ

もちろん、それもあるが……
なに、シレーネが面白い番組だから、ぜひ、出演するように言っててな

ビビ

そのときのシレーネの引きつった表情を見て興味が湧いた

メティ

貴女、その程度の覚悟じゃ簡単に心を折られるわよ

リン

むぅ、わたしは心を折ったりなんてしてません!

そもそも、どうして本を紹介するだけで心が折れたりするの!?

メティ

気付いてないのがなおさら性質が悪いわ……

ビビ

くくっ、なに、心が折られたんなら、あたしの番組で復讐するさ

メティ

……ビビさん、番組の私的利用は止めてくれるかしら?

ビビ

メティにだけは言われたくないな

リン

ところで、ビビちゃんはどんな本を読んでみたいの?

リン

やっぱり、『女王様入門』か………
それとも『家族と仲良くするために必要な15のこと』……とかがいいのかな……?

ビビ

お前の目にあたしがどう映ってるかが、気になるとこだが……………
簡単に読めて、なおかつ面白い本にしてくれ

リン

あっ!
それならちょうど今、ある絵本のシリーズがすっごく流行ってて、それが本当に面白いの

ビビ

絵本か………ふむ、あたしでも読めそうだな
リン、それはどんな話なんだ?

リン

『働きアリのフレディ』っていうお話で、たくさんシリーズがあるんだけど、お話はとても短いから第1巻を読んでみるね

ビビ

ふむ、アリの話か………
タイトルもいかにも絵本という感じだな

メティ

絵本だからって油断してたら、痛い目見るわよ………


『働きアリのフレディ』

リン

僕は働きアリのフレディ、どこにでもいる普通の働きアリさ

ビビ

この明るい雰囲気、子ども向けのちゃちな絵本じゃないか
なにを心配することがあるんだ、メティ

リン

『おはよー、フレディ。今日も外回りかい?』

リン

今日も働きに出ようと巣の中を歩いていると、同期のロバートが僕の肩を叩いた

リン

『やあ、ロバート。今週はノルマに届いてなくて、兵隊アリにさ………だから、休日返上さ』

ビビ

………なんだ、急に話がシビアに

メティ

ノルマは重要視するのは絵本だろうと当たり前のことよ
休日だろうとなんだろうと結果を上げないとお話にならないわ

ビビ

いや、お話になるだろう

リン

『……ああ、お前もか』

リン

『……うん、じゃあ、ロバートも』

リン

僕らは不満を顔ににじませながら、見詰め合った

リン

『ほら、みろ、フレディ。噂をしてたらほら、いけすかない兵隊アリたちがまた騒いでるぜ』

ビビ

………これのどこが子ども向けなんだ?
いや、絵本は子どもが読むものと思い込んでいたあたしが間違っているのか……

メティ

いえ、そんなことないわ
これはわたくしの価値観ともずれてるもの………

リン

『オラオラ! そこ、なにやってる! さっさと仕事に行かんか、屑どもめ!!』

リン

巣の入り口で仕事を急かしているのは、兵隊アリのデニーロさんだ

メティ

で、デニーロ…………
あら、ぜひともお金の取立てに行かせたいわ

リン

『お前らみたいな愚図は淘汰されるぞ! 女王さまは、今もなお働きアリを産んでおられる、後釜はたくさんいるんだ!』

リン

デニーロさんの怒声に、僕ら働きアリはビクビクしながら列をなして外へと出て行く

リン

『同じ女王から産まれたのに、自分が兵隊アリだからってあの態度、ケッ』

ビビ

………あたしに言っているようにしか聞こえんな

メティ

………気のせいよ

リン

ロバートは反抗的な目をしながら、悪態をついた
僕もその気持ちは分かる、だけど、僕らはなんだ

リン

甘いものをみつけても、それを自分で食べることもできない
さらにいえば、同じ働きアリでも仕事をせず食って寝るだけの生活を送るやつらもいる

リン

この世は不平等だ………とても

メティ

うふふ、お金の前に不平等なのは当たり前よ
これはもう自然の摂理だわ

ビビ

お金の話なんてしてないぞ、メティ

リン

でも、その事実を突きつけられたところで僕らが選べるのはたった一つ
それを受け入れることだけ

ビビ

くくっ、やけに深いことを言うじゃないか

メティ

真実を訴えかけるような作品だわ

リン

『おいそこ!! そこだ! そこ!』

リン

デニーロさんの触覚がこちらに向けられて、思わず、どきりと心臓が跳ねた

リン

『そっちじゃない、そう、お前だ、お前!』

リン

『お、おお、お前じゃない、俺はロバートだ!
とロバートは小さな体を震わせながら、声を荒げた

ビビ

ロバートのやつ、ずいぶんと強気じゃないか

リン

『ロバートだぁ? 働きアリ風情が名前をなってんじゃねぇー! それにお前、今、反抗的なことを言っただろ!! 聞こえてるんだよ!!』

リン

デニーロさんの鋭い怒声が巣穴の中を響いて、かすかに土が崩れた

ビビ

すごいやつだな…………
部下には欲しくないがな

リン

『おい、なんだ、その反抗的な目は! ふん、そっちのお前は先に仕事にいけ!』

リン

『……はい。じゃあ、先にいくよ、ロバート』

リン

僕は自分の心を騙して、巣穴から出て行く…………
いや、逃げただけだ……僕には立ち止まる勇気なんてなかった

ビビ

さて、ロバートがどうなるのか………
まぁ、このパターンから考えられるのは……

メティ

フラグを立てすぎたわね

リン

なんとかノルマを達成させてから、気分転換に巣の外を歩いていると、働きアリたちが群がっているのを見つけた

リン

『なにかあったの?』
と、僕が話かけると、神妙な顔つきでみんなが僕を見つめた

リン

『あぁ、フレディか……これ、見てくれよ』

リン

『え? ……ロ、ロバート!

リン

そこには、変わり果てたロバートの姿が……無残にも横たわっていた

ビビ

……やはり、ロバートは犠牲になったか

メティ

デニーロ………愚かなやつね
こういうのは死なれたら負けなのに、わかってないわ

リン

『ひでぇだろ……兵隊アリたちにリンチされたらしい』

リン

誰もがその死骸を見て、口を閉じ、そして、明日はわが身だと死の恐怖感に怯えていた
そして、耐え切れなくなった誰かが叫び声を上げた

リン

『い、いやだ! 俺もう、こんな生き方、嫌だ!!
好きなときに餌とって好きなときに食べて、好きなところへ、好きなやつと歩きてぇよ』

メティ

………どうでもいいけど、リンさん、本を読むの上手いわね

リン

『俺もだ』『わかるよ』口々に不満を言い出す、みんな

リン

僕はロバートを見た
そこには悲惨な死骸が転がるだけ
それでもロバートの瞳だけは、死んでいなかった……そして、ただじっと何かを訴えかけている

リン

気がつくと、僕は拳を握りしめ、喉の奥から声を絞り出していた

リン

『……戦おう』

ビビ

………今更だが、何なんだ、この話は

リン

みんなは顔をしかめるが、僕は死を覚悟しながら、言葉をつむぎだす

リン

『僕らはアリだ、働きアリだ
だけど、ただ働くために生まれてきたんだじゃない!

リン

……権利がある、僕らにだって幸せになる権利が

リン

『戦おうよ、みんなで、力をあわせて! これだけの数がいるんだ! 勝てる、勝てるよ!
女王を倒して、僕らだけの……僕らだけの自由な国を作ればいいんだ!』

ビビ

くくっ、女王を倒して、か………
古傷をえぐるような話だな……

メティ

要するに、反抗期ってことかしら……?

リン

僕の言葉にみんなは力強く頷いた

リン

僕らは、自分の女王ははに反発する……革命を起こすんだ

リン

『働きアリのフレディ、革命の始まり』

リン

っていうお話なんだけど、ビビちゃん、どうだった?

ビビ

ふっ、リンの言いたいことはよくわかった

メティ

本当に売れてるのかしら、この絵本?

リン

これすごい人気作の絵本なの、コメットちゃんも孤児院で読み聞かせしてるんだって

ビビ

面白いのは認めるが、あたしは自分と同じ立場のものが追いやられるのを見る趣味はないな

リン

え、でもこの前、学園の図書館でビビちゃんの妹さんと部下さんたちが読んでたって、コメットちゃんが言ってたよ

ビビ

くくっ、あはははははっ、なるほど、これはたしかにあたしにピッタリの本だ………
いや、ピッタリ過ぎるな

ビビ

ふむ、気に入った……なんとしてもこの本の続きが読みたい

リン

うふふ、気に入ってもらえてよかった
続きなら………妹さんが持ってるかもしれないよ?

ビビ

いや、あいつらに借りると意味がない………
これはあくまで反乱を防ぐための布石さ

メティ

なんだか、血なまぐさい話になってきたわね

ビビ

なに、あいつの狙いはあたしの玉座というより、シンクだからな

リン

ビビちゃん………それって何の話かな?

ビビ

いやいや、あたしの一族の問題だ、リンに迷惑はかけられん

リン

でも、シンクさんが関係してるんだよね?

ビビ

それも込みで一族の問題だからな、悪いが聞かなかったことにしてくれ

リン

ちょっと待って、おかしいよ、ビビちゃん!
シンクさんがどうして一族に含まれてるのっ!

ビビ

メティ、番組を締めてくれ

メティ

わかったわ
さて、放送第2回もこれで終わりよ

リン

………ねぇ、どういうことなの?

メティ

それじゃ、また次回、会いましょう

メティ

ごきげんよう

ビビ

またな

リン

教えてよ、ビビちゃん!

番組終了

楽屋
「アリ地獄」

ビビ

ところで、働きアリはみんなメスだったはずだが、どうしてフレディはオスなんだ?

リン

それは確か、作者があとがきで『オスの方が悲壮感が出るからそうしました』って書いてあったはずだよ

ビビ

くくっ、確かにそうかもしれないな
それで、『働きアリのフレディ』は、もっと悲壮感漂う内容になるのか?

リン

次のお話でフレディが兵隊アリと戦うために仲間を集めるんだけど

リン

メンバーの一人が、密告され、捕まっちゃって

リン

そのあと、見せしめに……

メティ

まさにアリ地獄ね……

リン

リンが薦める貴女にぴったりの物語

リン

さて、みなさんこんにちは
リン=ドラーヴェです

リン

この番組は、ゲストのみなさんにピッタリな本を紹介していく読書推進番組です

リン

あはは、やっぱり、照れちゃいますね

リン

わたしひとりだとすぐ失敗しちゃいますから
アシスタントと進行をメティさんにお願いしています
どうぞ

メティ

おーほっほっほっほっ、アシスタント兼進行のメティ=エリファスよ
ふふっ、わたくしが出ないとでも思ったのかしら?

メティ

ふふっ、この番組が放送されたら、書店、図書館大忙し!
まだまだスポンサーは受け付けるから、連絡待ってるわ

リン

あはは……
ところで、メティちゃんって、本を読んだりするの?

メティ

ええ、必要なものは読むわね
好きな本は『高利貸し入門』『殺さない金の貸し方』『お金の真実』と、あと『法律の抜け道』も読むわ

リン

め、メティちゃんらしい選択だね

メティ

さてと、さっそくだけど、リンさんは今までどれくらいの冊数を読んできたのかしら?

リン

うーん、昔からずっと病弱だったから……
学園でもシンクさんと出会うまでは本を読むぐらいしかできなかったし……

メティ

なるほどね、病弱の甲斐あって、数え切れないほどの本が頭の中に蔵書されてると?

リン

そんな大げさなものじゃないよ、読んでも忘れちゃうこともあるから

メティ

謙遜しなくていいの
むしろ、それぐらいの肩書きがないと番組を任せられないわ!

リン

そういうものなの?

メティ

ええそうよ
もういっそのこと、世界中の本を読みつくした竜族っていうのはどうかしら?

リン

……え、えっ!?
それはさすがに……飛躍しすぎかな

リン

わたしが読んだことあるのは、その……読んだことある本だけだから

メティ

何を当たり前のことを言ってるかしら

まぁいいわ、そろそろゲストを呼ぶわよ

リン

うふふ、誰かなぁ
第1回のお客さんは

メティ

ちなみに、ゲストに来て欲しくないのは誰かしら?

リン

い、いないよ、来て欲しくないゲストなんて…………
わたしはみんなに来て欲しいの

メティ

強いて言うならでいいの……
むしろ、先に言っててくれればゲストに呼ばないことも十分にあるわ

リン

………強いてって言われても

メティ

安心なさい、発言はちゃんとカットするわ

リン

………うーん
やっぱり、コメットちゃん………かな

メティ

ほぅ、コメットさんね…………
ふふっ、確かに厄介な相手だものね……
わかったわ、オファーが来ても拒否しておくわ

リン

……え?
ち、違うの!
ほら、コメットちゃんってわたしと一緒で読書家だから、来ても紹介できるか心配で!

メティ

そういうことにしといてあげるわ

メティ

それでは、第1回のゲストの登場よ、どうぞ!



パチパチパチパチ

シレーネ

残念ながらコメットじゃないわよ、リン

リン

べ、別にわたしはコメットちゃんが嫌なわけじゃなくて、その、本を紹介できないからで……

シレーネ

ふふっ、そういうことにしとくわ

メティ

というわけで、今回のゲストはシレーネ=セントールさんよ

シレーネ

リン、お手柔らかに頼むわね

リン

う、うん……本の紹介をするだけなんだけど

メティ

一応聞いておくけど、シレーネさんは本を読むのかしら?

シレーネ

一応ってどういう意味よ?
わたしだって、本ぐらい……その、時々、読むわよ

リン

えぇっ!?
シレーネちゃんって読書するの!?

シレーネ

するわよっ!
貴女たちの中にいるわたしってどんななのよ!?

リン

うーん…………き、筋肉?

メティ

つまり、リンさんが言いたいのは頭も筋肉で出来てるってことかしら?

シレーネ

そうなの、リン

リン

………え、えぇ!?
そんなことわたしは思ってても言わないもん

シレーネ

お、『思ってても』って、どういうことかしら?

メティ

…………おほん、えーっと、シレーネさんにはぜひ、今日の収録を境に読書家になってもらえればいいわね

シレーネ

さらっと流さないでちょうだい

メティ

さて、リンさん
シレーネさんには本の紹介をしてくれるかしら?

リン

はい、それではシレーネちゃん
どんな本が読みたいの?

シレーネ

はぁ………
そうね……有名な武人の逸話なんかが読みたいわね……伝記っていうのかしら?

リン

うーん、伝記……伝記……伝記……でも、シレーネちゃん?
読書しないのに、伝記なんて言葉どうして知ってるの?

シレーネ

……だから、時々はするわよ、時々は

リン

うふふ
………あっ!
ありました、シレーネちゃんにピッタリのお話が!

シレーネ

………ピッタリ?
それはぜひ、聞かせてもらいたいわ

リン

『オーデン大公』っていう昔の偉い人間のお話なの

シレーネ

聞いたことないわね……
でも、『大公』ってことは、国王に次ぐ権力者ってことかしら?

リン

うん
その人の逸話がとても面白くて、シレーネちゃんにピッタリだと思うの

シレーネ

ふふ、なかなか期待できそうね


『オーデン大公』

リン

むかーし、むかしのことです
人間の国に、オーデンという大公がおりました

リン

オーデンは文武両道にして、政の才覚もあり、国王、民衆からの信頼も厚く

リン

魔物の国にも名が知られる程の豪傑として、恐れと尊敬を抱かれていました

シレーネ

例えるなら、ヴェーラの父とシンクを足した感じかしら?

メティ

あら、それはすごい人間ね
ふふっ、そんな人間に金を貸したら高額で返ってくるわよ

リン

そんな彼にはその生涯を閉じるまで治ることのない、とても厄介な悪癖がありました

シレーネ

……悪癖、ね

リン

その悪癖というのが、周囲に並び立つものの悉くを蹴散らし、自らの優位性を知らしめなければ気が済まないというもの

シレーネ

負けず嫌いってことかしら……
その気持ち分からなくもないわね

メティ

ふふっ、やっぱりシレーネさんにピッタリだわ

リン

幼少の頃より、オーデンは市井に腕っ節の強い男がいると聞けば、家を抜け出しその者と腕を競い合い、そして勝利しては高らかに宣言するのです

リン

『腕っぷしに自信があるものは名乗りでよ、このオーデンが相手になる』

シレーネ

大公となる傑物だもの、それぐらいの競争心は必要よ

リン

それは何も腕っ節に限ることなく、市井に切れ者ありと噂が立てば、すぐにまた『オーデンが知恵比べで勝った』という噂が流れるほどでした

シレーネ

……すごいわね……頭も良いなんて

メティ

貴女がいうと尚更―――

シレーネ

………………

メティ

あら、睨まないでくれるかしら?

リン

その悪癖は、たとえ国内に敵なしと言われても、
他国に『戦術の長けた軍師あり』と耳にすれば、その国を攻め

リン

『オーデンといえど魔物には敵うまい』といわれれば、すぐに魔物に戦いに挑む。
すさまじい対抗心の持ち主でした

メティ

おーほっほっほ!
お金のことはわたくしも負けていないわ!

シレーネ

ふふっ、今のでオーデンが貴女の元に来るわよ

メティ

来たら、十分一割で金を貸してやるわ!

リン

あるとき、オーデンの政敵であるリリョウが『どうにかやつの名声を地に落とすことできまいか』と頭を悩ませていました

メティ

ここで、ライバルの登場ね

リン

そして、リリョウは大公の負けず嫌いを煽り立てるような噂を流し、
恥をかかせてやろうと計画しました

リン

しかし、計画の内容を聞いた周囲は、さすがに引っかかるわけがないとみな一様に笑い

シレーネ

……相当くだらない計画のようね

リン

リリョウも『こんな噂に乗るわけがないだろう』と笑いつつも『いや、ものはためしだ』と、冗談半分で計画を実行しました

リン

『この国にオーデン大公に敵う人はおらぬ
しかし、オーデン大公に敵うならおるぞ』

シレーネ

…………馬ね

メティ

…………馬よ

リン

『国王の愛馬ゴオは、装飾なくとも美しさが際だち、走る速さはあのハーピーにも匹敵するという』

シレーネ

キューテ先生が聞けば、どうなることやら……

リン

『さらに、ゴオが鳴き声を上げると、誰もが閉口し、聴き入ってしまう』

リン

『そして、何より誉れ高いのは、この国で誰よりも偉い国王をその背に乗せて悠然と歩いている』

リン

『その凛々しき姿、オーデン様とて敵うまい』

シレーネ

…………嫌な予感がするわね

リン

この噂は一つの冗談として、国中の広まりました

リン

それからしばらくした後、王が聖誕祭にゴオとともに、市井を練り歩くパレードが開かれることになりました

リン

そして………パレード当日、事件はおきました

シレーネ

…………まさか、ね

メティ

いや、それ以外、考えられないわよ

リン

『あれれ~おかしいぞ、王様が全裸のオーデン様にまたがって練り歩いているよ~

リン

『この国も……終わりね』

リン

オーデンは、王様を背に乗せて裸で悠然と歩き、そして城下を響き渡るような声で鳴き声を挙げました

リン

『ヒッヒーン!』

シレーネ

…………

メティ

…………

リン

すると周囲は一瞬にして静まり返り、
それを見たオーデンは満足げに去っていきました

リン

この事件を境に、オーデンの名声は地に落ち、政敵リリョウが政を仕切るようになったのです

リン

このことから、大公が馬になる、大公が馬、対抗馬という言葉が生まれたそうです

メティ

待ちなさいよ!
その成り立ちは、明らかにおかしいでしょう!!

リン

でも、そういう話なの……
どう、楽しんでもらえたかな?

シレーネ

…………どういうつもりかしら、リン?

リン

あれ、シレーネちゃん……どうしたの、怖い顔して……

シレーネ

わたしの耳には不思議と嫌味に聞こえたわよ
………まるで、わたしの対抗心を煽るような話でね……

リン

シレーネちゃん、お話ってものの多くには、教訓ってものが書かれるものなの

リン

つまり、嫌味に聞こえたのなら、それはシレーネちゃんの教訓になったっていうことなの

シレーネ

……他に、話はないの?
もっと、こう心躍る武勇伝のような……

リン

他には『馬の耳に祝詞』という話があって
うふふ、これがまた面白くて

シレーネ

もういいわ……
メティ、番組を締めましょう

メティ

………そうね
リンさん、紹介はいいから、そろそろ番組をしめるわよ

リン

え、でも、まだまだ紹介してないシレーネちゃんにピッタリの本があるんだけど……

メティ

リンさん、はやく締めましょう……
誰かさんのストレスが限界に達して噴火するかもしれないわ

えっと、『オーデン大公』がシレーネちゃんに気に入ってもらえて、よかったです
ぜひ、悔い改めて欲しいですね

シレーネ

メティ………
この番組、早々に打ち切った方がいいわよ
その方が世の中のためになるわ

メティ

ふふふっ、それは無理な相談ね
これぐらい毒がないと視聴率は稼げないわよ……残念だけど、貴女は生け贄に過ぎないわ

シレーネ

……意外といいコンビかもしれないわね、貴女たち………

リン

放送第1回にして、読書の素晴らしさをシレーネちゃんに伝えられたと思います

シレーネ

伝わったわ、貴女の黒さがね……

リン

それではまた、次回、お会いしましょう……さよなら

メティ

ごきげんよう

番組終了

楽屋
「馬の耳に祝詞」

メティ

第1回放送、お疲れ様

リン

うふふ、お疲れさま……ちゃんと出来たかな?

メティ

ええ、読書紹介番組かどうかはおいといて、貴女の個性がとても際立ってたわ

リン

ええっ、ほんと!?
わたし、そんな病弱で大人しいところが出てたかな?

メティ

…………ところで、最後に紹介しようとしていた本ってどういう内容なのかしら?

リン

シレーネちゃんにぴったりの話なの

メティ

わたくしは内容を聞いているの

リン

シレーネちゃんにぴったりの話なの

メティ

だから、内容を―――

リン

シレーネちゃんにぴったりの話なの

メティ

…………