メティ

起立、礼、着席

メティ

教えてキューテ先生!

メティ

愚かな学生のみなさん、ごきげんよう
わたくし、当番組の司会兼学級委員を務めるメティ=エリファスですわ

キューテ

こんにちは、この番組で教師を勤めています、キューテ=オトカネです

メティ

さて、この番組はお馴染みキューテ先生に魔物の生態について詳しく教えてもらえる教育番組よ

メティ

そして、短い間だったけど愛されていたこの番組も、今回で最終回を迎えたわ

キューテ

あっという間でしたね

メティ

…………書籍化したかったけど、番組が短いから絵本ぐらいにしかならないのよ

キューテ

少し残念ですが仕方ありませんね、またいつの日かチャンスは来ますよ

メティ

いえ、諦めるのは早計過ぎるわ!
逆に考えれば、今までに紹介した魔物だけで何とか本を出せないかしら?

キューテ

うーん…………
やっぱり、パンフレットくらいにしかなりませんね

メティ

パンフレット…………カラー…………写真!

メティ

そうだわ、もういっそのこと全員のグラビアを載せて『魔物娘図鑑~わたしたちの秘密教えちゃいます?~』っていうタイトルで売り出せばいいわ!

キューテ

もう、またですかっ!
前回、『それは教育番組に合わない』って、ご自分で言っていたではありませんか!?

メティ

形振りかまっていられないわ!
お金のために脱ぎなさいっ!

キューテ

……それでは、今回の学生をお呼びしましょう、この方です、どうぞ

パチパチパチ

ヴェーラ

しゃーーーっ!
ここに来て番組出演が増えたヴェーラ=M=デーンの登場だーーーっ!

キューテ

やっぱり最後は、ヴェーラちゃんでしたか
うふふ、サボらずに来てくれたんですね

ヴェーラ

さすがにキューテ姉の番組が最終回とあっちゃ、出ないわけにいかないでしょ?

キューテ

学生の頃からちゃんと出てくれればよかったんですが……

ヴェーラ

ふふん、それは無理な相談ね

キューテ

ふふ、それにしても、教えがいのない学生が来ましたね

ヴェーラ

ま、あたし頭いいからね~
キューテ姉が間違ってたら、学生の頃みたいにソッコーで指摘するから

キューテ

わたしもちゃんと成長しているんですよ

メティ

頭がいいくせに、学園屈指の問題児って……

ヴェーラ

ふふんっ!
今に世界で一番の問題児になってみせる!

キューテ

はぁ…………
実現させそうだから、嫌になりますよ

ヴェーラ

ま、冗談はこの辺にしといて……
キューテ姉って魔物について教えてくれるんだよね?

キューテ

はい、そういう番組ですから

メティ

分かってるとは思うけど、ちゃんと前回までの放送と被らないように質問しなさいよ

ヴェーラ

わかってるって
あたしが聞きたいのは『史上最悪の魔物』ってどんな種族か知りたい

メティ

知ってどうするつもりよ?

ヴェーラ

喧嘩売っても面白そうだし、あー、部下にするのもありね

メティ

さすが、世界レベルの問題児ね……

キューテ

史上最悪…………
そうですね、心当たりがあります

ヴェーラ

最強じゃなくて最悪で頼むよ、キューテ姉

キューテ

分かりました
ただし、これはあくまで、一部の図鑑に載っていた知識ですので、真に受けないようにお願いします

ヴェーラ

いーよいーよ、んじゃ、早速お願い

キューテ

そうですね……
強さを無視して考えるのなら、わたしのお師匠様である、アルルさんの種族『アルラウネ』はある意味最悪の種族と言えるでしょう

ヴェーラ

へ?
なんだか、すっごく意外なんだけど

メティ

そうね、あの能天気植物が最悪だなんて……

【アルラウネ】

キューテ

どうして、最悪だと呼ばれるか……
そもそも、アルラウネは遺体の血を吸って育ちます

キューテ

そして、遺体から血を吸い上げることで、死者の持つ特徴や一部の記憶をコピーしてしまうのです

ヴェーラ

確か、キューテ姉の師匠って―――

キューテ

はい、お師匠様はレイクさんの奥さんの亡骸から血を吸って、成長したそうです……

メティ

あら……

キューテ

アルラウネに関する伝承の一つですが、かつて、魔物が滅ぼした人間の村で大量のアルラウネが生まるという事件が起こりました

キューテ

このとき、村を滅ぼした魔物は瞬く間に村を捨てて退却したそうです

ヴェーラ

へ?
何でわざわざ捨てんのさ?

キューテ

アルラウネの血を吸った人間が魔物に対して恨みを持っていたら、どうなると思いますか?

ヴェーラ

あー、なるほどね、襲われないように撤退したってわけ?

キューテ

そういうことです
アルラウネは宿主の意思を尊重する傾向がありますから……
一方、村を取り戻しにきた村人たちは言葉を失います

メティ

そりゃ、アルラウネが大量に発生してたら言葉も失うわ

キューテ

それだけじゃありませんよ…………

ヴェーラ

確かにそりゃ、最悪だわ

キューテ

ヴェーラちゃんは気付きましたか……
このとき、アルラウネが吸った血は、魔物に殺されたものたちの遺体
つまり、取り返しにきた村人たちの、家族や友人と似た顔をしていました

メティ

それなら、生まれ変わったと思って普通に生活すればいいでしょう?

ヴェーラ

メティってどんな神経してんの?

メティ

貴女に言われたくないわ

キューテ

敵対している魔物とはいえ、見知った顔の持ち主が笑いかけてくるんです

キューテ

剣を向けることができず、そのまま精を捧げ、挙句、生まで捧げてしまった…………
というのがアルラウネに関する伝承の一つです

キューテ

このことがあって以来、魔物、人間双方の文献に恐ろしい魔物として書に記載されるようになったそうです

メティ

どうせなら、お金を捧げて欲しいわ

ヴェーラ

あんたもぶれないわね

メティ

だから貴女に言われたくないわ!

キューテ

どっちもどっちですよ

ヴェーラ

で、どんな生態なの?

キューテ

生態としては、植物同様、日光や水を好み、人間の精を栄養として成長します

キューテ

成長すれば、頭部の花が咲き、そして、その花にはどんな万病も治す力があるとされています

ヴェーラ

メティの守銭奴も治んの?

キューテ

……無理ですね、精神的なものですから

メティ

治さなくて結構よ、これがわたくしなの!

ヴェーラ

ま、いいんじゃね?
それが譲れないものってんなら、生涯大事に守ってな

メティ

ええ、わたくしのライフワークだもの!
おーほっほっほ!

キューテ

ちょうど今、精神的なものは無理だといいましたが、アルラウネに関する伝承の中には、それに類似した話があります

キューテ

昔、アルラウネの花で難病に侵された妹を助けようとした男がいました

キューテ

彼は薬を得るために、自分の精を捧げ、アルラウネを大事に大事に育てました

キューテ

そして、アルラウネは花を咲かせた頃には、男はもうアルラウネのことを愛してしまっていた…………

キューテ

それでも、男は妹のために泣く泣くアルラウネを斬り捨て、薬ですら治せないほどの心の傷を負ってしまったそうです

ヴェーラ

それは確かに最悪かもしんないねー
でも、キューテ姉の師匠見てたら、全然、そんな感じしないよね

メティ

失敗した薬は最悪よ、それは間違いないわ

キューテ

昔、お師匠様のところで修行していた頃、よく日向ぼっこに付き合わされました

キューテ

これも修行だといって、二人でポカポカした陽気に当たって………
あのときの気持ち良さそうなお師匠様の笑顔は忘れられません

キューテ

まぁ、未だに、あの優しい表情で畑に埋もれていらっしゃるので、忘れたくても忘れられませんが……

ヴェーラ

あたしが求める『最悪』とは違ったけど、キューテ姉にしては面白い話だったわ

メティ

そうね、キューテさんにしては良い方かしら

キューテ

上から目線なのが気になりますが………
次はどんな話をしましょうか?

ヴェーラ

ふっふーん、次はキューテ姉のとこの大食いモンスターについて知りたいね

キューテ

スィークさんですか?

ヴェーラ

おうよっ!
怒ると怖いスィーク姉のこと、いろいろ知ってても損はしないっしょ?

メティ

確かにわたくしも知っておきたいわね………
今後ともいろいろとありそうだし

キューテ

分かりました、それではスィークさんの種族について話しましょうか

【一ツ目鬼】

キューテ

スィークさんは中央にある一つ目と二つの角が特徴的な鬼の魔物です

ヴェーラ

スィーク姉って見た目はあれだけど、中々強いよね

キューテ

そうですね、身体能力はかなり高いはずです
それから、魔物の中でも長命な種族として有名ですね

ヴェーラ

ん? 今、何歳くらいなんだっけ?

キューテ

わたしが生まれた頃にはもう、150歳は超えていたはずですから………えーと今は……

ヴェーラ

あたしだったら数えるの辞めるわ

メティ

それだけ生きようっていうんだから、胃袋も成長するわよね

キューテ

いえいえ、スィークさんがあれだけの量を食べるのもちゃんとした理由があるんですよ

ヴェーラ

へ? 好きで食べてるんじゃないの?

キューテ

もちろん、それもあると思いますが、本来、一ツ目鬼の一族は食人衝動を持っています

メティ

あら、あの腹ペコモンスター、人まで食べるのねぇ

キューテ

いえ、スィークさんは決して口にしませんよ
その衝動を抑えるために、大量の食事を摂っているんですから!

ヴェーラ

なに、ただの大喰らいじゃないの?

キューテ

当然です!
わたしのお母さんを何だと思っているんですか!?

ヴェーラ

や、だって、お母様の作った料理、滅茶苦茶食べてた印象しかないし

キューテ

…………そういえば、ヴェーラちゃんも、スィークさんのご飯を盗んで怒られてましたよね

ヴェーラ

だって、スィーク姉、ご飯ってなったら妥協しないし

メティ

あれが一匹いるだけで、食費が馬鹿にならないんでしょうね

キューテ

あはは………
ひとりだと良かったんですが……

キューテ

さて、それじゃ、最後の質問と行きましょうか

ヴェーラ

んー、魔物の話聞くのも飽きたし、魔物以外の話が聞きたい

メティ

なに言っているのよ!
番組内容くらい確認しなさい!

ヴェーラ

タイトルで考えたら『教えてキューテ先生』なんでしょ?
だったらいいじゃん!

キューテ

うーん、話せないこともありませんね……

ヴェーラ

へ、人間とか無しだよ?

キューテ

はい、少し奇妙な話になるんですが

ヴェーラ

いいじゃんいいじゃん、それお願いっ!

キューテ

それでは、一つ

メティ

…………

【???】

キューテ

この世界には、様々な人種、様々な魔物、様々な動物、様々な植物が生物という括りの中で、ともに共存し合って生きています

キューテ

学園は、そういった共存の、ある意味一つの理想を成し遂げようとしています

ヴェーラ

それがヒビキのおっちゃんが成し遂げたかったことなんでしょ?

キューテ

はい、そうです
だいぶと時間は掛かりましたが、父の目指しているところに近づいてきました

キューテ

…………ただそんな学園には、創立当初より、現在に至るまで、生物ではない”何か”かが在学しているという噂があるんです

ヴェーラ

ふーん、確かに学園に幽霊がいるっていう噂、結構聞くわね
女の霊、なんだっけ?

キューテ

そうらしいですね
急に出てきては、意味深なことを言って消えていくことがあるっていう話です

ヴェーラ

まぁ、変な学園だし、幽霊のひとりやふたり、居てもおかしくないわよね~

メティ

…………

ヴェーラ

メティ、あんたさっきからなに黙ってんの?

メティ

別に……何でもないわ

キューテ

何か知っているんですか?

メティ

さぁね…………
頃合もいいし、そろそろ番組を締めるわよ

ヴェーラ

なーんか、メティらしくない感じ
もしかして、ビビッてんの?

メティ

…………

キューテ

メティさんは幽霊とか信じてますか?

メティ

わたくしが信じているのはお金だけよ!
おーほっほっほ!

ヴェーラ

はぁ、まったく空気読めないわよね、あんた

メティ

だから、貴女には言われたくないわ!

キューテ

うふふっ、それでは、この辺りで授業を終えましょうか

メティ

それでは、起立

メティ

ヴェーラ&キューテ

ありがとうございました

メティ

着席

キューテ

ご視聴、ありがとうございました
またいつか会いましょう

番組終了

楽屋
『???』

キューテ

それでは、お疲れさまでした

ヴェーラ

おつかれー

メティ

ふぅ……、まさか最後に意識集合体の話になるとはね……

メティ

だいたい、ファムさんの番組見てたら得体の知れないのがいるってわかるじゃない……
知名度低いのかしら

ファム

そんなことないわ

メティ

まぁ、視聴率がいいのは確かね……
だけど、あまりにも普通に映るものだから、違和感がないのかもしれないわ

ファム

心外ねぇ………
ちなみに、メティ、わたしの登場には驚かないの?

メティ

気配くらい、分かるわよ……




メティ

……ってもういない

メティ

起立、礼、着席

メティ

教えてキューテ先生!

メティ

学生のみなさん、ごきげんよう
わたくし、当番組の司会兼学級委員を務めるメティ=エリファスです

キューテ

こんにちは、この番組で教師を勤めていますキューテ=オトカネです

メティ

ふふ、キューテさん
いいニュースが入ったわ!

キューテ

えらくごきげんですね、何かいいことでもありましたか?

メティ

おーほっほっほ!
聞いて驚きなさい!
前回の放送のあとに、スポンサーから書籍化の企画が来たわよ!

キューテ

えっ!?
ほ、本当ですかっ!

キューテ

でも、わたしは絶対に脱ぎませんよ!

メティ

そういう不謹慎な発言は自重しなさい
だいたい、貴女が脱いで誰が得するのかしら?

キューテ

何言っているんですか、メティさん!
前回、わたしに脱げっておっしゃってましたよね!?

メティ

貴女ね、ふざけないでくれるかしら?

キューテ

ふざけてませんよ、全部、前回のメティさんが言ったことじゃないですか!

メティ

この番組は健全な番組で、親子揃って見れる素晴らしい番組だと言われてるの
その自覚を忘れないでくれるかしら?

キューテ

もう……なにを言っても無駄なようですね

メティ

それじゃ、今回の転校生を紹介するわ、どうぞ

パチパチパチ

ミリータ

あの、人魔の村から転校してきました、ミリータ=H=アスクレピオです
短い間ですが、よろしくお願いします

キューテ

うふふ、ようこそ、ミリータちゃん

ミリータ

うん、キューテさん……
じゃなかった、キューテ先生、今日はよろしくお願いします

キューテ

ふふ、こちらこそ、よろしくお願いしますね

ミリータ

それにしても、懐かしいな
学生時代に戻った気分だよ

キューテ

うふふ、本当に懐かしくなるのはもっと年老いてからですよ

メティ

貴女みたいにかしら?

キューテ

わ、わたしだってまだまだ若いですよ!
……まぁ、わたしもそろそろ結婚したいなーっとは思ってますが

ミリータ

キューテさんが結婚に意気込むのは勝手だけど
………先生は譲らないよ

キューテ

そ、そういうことはシンクさんが選ぶんですから、周りがとやかくいうことじゃありません

ミリータ

それじゃ、わたしと先生が結婚したらスピーチはキューテさんにお願いするね

キューテ

なっ!?
そ、それはだめですっ!

メティ

……そういうのは後で楽屋でやってくれるかしら?

ミリータ

はーい

キューテ

……はい

メティ

ところで、ミリータさん、前回の放送は見たのかしら?

ミリータ

んー、わたし前回の放送なんて見てないから
ヴェーラちゃんがわたしのために南国に連れていくなんて話、知らないよー

メティ

しっかり見てるんじゃない

ミリータ

一応、ヴェーラちゃんの名誉のために言っておくけど、わたし、何度か極寒の海につれていかれたこともあるから……

キューテ

そ、それは災難でしたね

ミリータ

だって、わたしが寒さで眠くなってるとき、決まってヴェーラちゃんが来てさ
『どうせ寝るんだったら船の上でも一緒でしょ?』って言って、無理やり連れて行くんだよ

キューテ

ヴェーラちゃんらしいですね……

メティ

美談が一つ崩れたところで、授業の方を始めてくれるかしら?

キューテ

それでは、授業を始めます
ミリータちゃん、何か聞きたい種族のことはありますか?

ミリータ

うーん、ちょうど今、ヴェーラちゃんの話が出たから……
ヴェーラちゃんを育てたライムさんの話が聞きたいな

キューテ

ライムさん、つまり、スライム族のことですね
分かりました、それでは今日はスライム族のことから話していきますね

【スライム】

キューテ

スライムという種族は、肉体がジェル状の魔物で、たとえ弾けとんだとしても、集めれば下の状態に戻るすごい身体をしています

メティ

便利な身体よね、潰れても元通りなんて……

キューテ

単純な作りであるからこそ、ですね
それと、精神面も非常に単純なつくりをしており、本能に忠実に生きるようにできています

ミリータ

それってどういう本能なの?

キューテ

わたしも詳しくは知りませんが、時代ごとに違う……という話です

ミリータ

そうなんだ……じゃあ、ライムさんの本能って?

キューテ

ライムさんが生まれた頃は、まだ人と魔物が戦争していた時期ですから
人を襲うことが本能だったようですね

ミリータ

ええっ?
だ、だったら、どうやってヴェーラちゃんのお父さんと結婚できたの!?
もしかして、愛の力とか?

メティ

お金の力に決まってるわ!

ミリータ

あは、は……いや、それは違うと思うんだけど……

メティ

おーほっほっほ!
お金の力は奇跡すら起こすわ

キューテ

ま、まぁライムさんが本能から克服したのはお金の力じゃなく、自分の本能を否定することだったんです

ミリータ

本能の否定?

キューテ

はい、人を襲う本能と人を襲いたくないという理性がせめぎ合い、そして、分離してしまった

ミリータ

あっ、だからライムさんってふたりいるんだね

キューテ

はい、そうです
自己が乖離し、ふたりのライムさんが生まれ―――

キューテ

その結果、スライム族の柔軟な身体がふたりの個性に合わせて変化したっていうのが、わたしの解釈です

ミリータ

なるほど、そんな悲しい経緯があったんだ……

メティ

ふたりとも好き勝手生きてるからいいんじゃないの?

ミリータ

あはは……そうかもしれないね
困難を乗り越えてちゃんと海賊になったんだもんね

キューテ

ふふ、ヴェーラちゃんの真っ直ぐさは、育ての親であり、名付け親であるライムさんに似たのかもしれません

キューテ

トラブルメーカーなところも、似ちゃったようですが

ミリータ

ふふ、そうだね

メティ

実の親以上にそっくりじゃない

キューテ

ヴェーラちゃんはアヴェスさんにも似てますよ
それになんでも完璧にこなすところは完全にラキスさんから引き継いでますし……

ミリータ

あの家族ってすっごく濃いよね

メティ

あのバ海賊団は全員厄介だから、苦手だわ

キューテ

うふふ……それじゃ、次はどの種族について聞きたいですか?

ミリータ

えーとね、キューテさんの家の……アラーニェさんの種族とか知りたいな
昔、お世話になったし……

メティ

あら、いいわね
それならいっそ、魔法から説明した方がわかりやすいんじゃないかしら?

キューテ

そうですね、それでは魔法について簡単に説明していきましょう

【魔法】

キューテ

魔法を使うには、まず、魔力というものが必要となります

キューテ

魔力は、肉体のどこかに宿る”核”と呼ばれるものに生命力を流し込み、変換することによって生まれます

キューテ

つまり、この核を持っているかが、魔法を使用できるかに繋がってくるわけです

キューテ

あとはその魔力をどのような形にしたいかを想像しながら放出する、おおざっぱにですが、これが魔法というものです

ミリータ

キューテさんのお父さんは、人間なのに核を持ってたから魔法が使えたんだよね?

キューテ

はい、そうですね
だから、わたしも魔法の素質を引き継いでいます

メティ

貴女のそれは誰に習ったのかしら?

キューテ

父もそうですし、あとは姫様……アラーニェさんからも教わりました

ミリータ

わたしも魔法で能力を抑えられていたから、本当に魔法があって助かったよ

メティ

本当に助かったのは貴女じゃなくて、周りじゃないかしら?

ミリータ

あは、は……そうなんだけどね

キューテ

魔法の説明も終わったことですし、アラクネ族の話をしましょうか

ミリータ

うん、お願いします

【アラクネ】

キューテ

アラクネ族は、下半身が蜘蛛の形をしている魔物で、蜘蛛と似た性質を持っています

キューテ

粘着質の糸を体内で生成して、放出することが可能ですね
そういえば、子どもの頃、姫様にハンモックを作ってもらったことがあります

ミリータ

へぇ~、なんかいいなぁ、楽しそうで

メティ

粘着質なんでしょう?
粘つくハンモックなんて嫌よ

キューテ

うふふ、そうなんですが、寝転がっても落ちない優れものでしたよ

メティ

あら、画期的ね………
子ども用の寝具にしたら、売れそうじゃない

ミリータ

あはは……
それで、学園の魔術的な要素ってアラーニェさんが作ったんだよね

キューテ

そうですね、ほとんど、姫様が作ったそうですよ
アラクネ族は魔法に長けた一族で、特に姫様は魔法の才能が飛びぬけていたそうですから

ミリータ

すごいよね、魔法の才能溢れるお姫様って……
だけど、どうして一族を抜け出したの?

キューテ

アラクネ族が『魔物こそ世界の覇権を掴む種族』だと主張して……
姫様を戦争に連れ出そうとしたのが原因だそうです

メティ

魔法の才能を戦争に使おうとするなんて、まさに愚民の考えそうなことね

ミリータ

それじゃ、メティさんは……って、決まってたね

メティ

おーほっほっほ!
当然じゃない!
お金儲けに使うわよ!

キューテ

……メティさんらしいですね

キューテ

それから、さっきミリータちゃんが姫様の魔法に感謝してると言ってましたが、わたしも感謝してるんですよ

ミリータ

え、キューテさんも何かしてもらったの?

キューテ

はい、わたしがこうして生きているのも、全ては姫様が召喚魔法を使って父を呼んでくれたことが始まりですから

ミリータ

アラーニェさんって本当にすごいよね

キューテ

トラブルメーカーなところもありますが、わたしにとってはお母さんのひとりですから

ミリータ

そういえば、キューテさんのお母さん、ルピュアさんも魔法が使えるんだよね?

キューテ

…………はい、そうですね

メティ

あら、妙な間があったわね

ミリータ

昔から思ってたけど、ルピュアさんの魔法とか黒い羽のことって……聞いたらダメなの?

キューテ

そんなこともないんですが…………
わかりました、わたしの種族ハーピーの話をしましょう

【ハーピー】

キューテ

ハーピーは、鳥と似た性質を持つ魔物です
見た目で言えば、この通り、手と足が鳥のようになってます

メティ

貴女たちハーピーって一族揃ってスピード狂なのかしら?

キューテ

……違います、これはわたしたち親子だけのものです

ミリータ

あはは……そうなんだ
でも、黒い羽は遺伝しなかったんだよね?

キューテ

ハーピーは本来、白い羽を持って生まれてきますから
ですが、極稀に母のように黒い羽を持つハーピーが生まれるそうです

ミリータ

でも、黒いってだけなんだよね?

キューテ

……そうだと、よかったんですが
……さっき、ミリータちゃんの質問、ありましたよね?

ミリータ

え?
ああ、魔法がどうこうって話?

キューテ

はい、黒い羽の持つハーピーは『死に追いやる魔術』……いえ、呪いを持って生まれてくるんです

メティ

呪い?

キューテ

わたしも詳しくはわかりませんが、以前、一族の方とお会いしたときに聞きました

キューテ

その強大な呪いは時に暴走し、命を奪う………それで母は里を追われてしまった、という話です

ミリータ

な、なんだかすごく重いね……ルピュアさん、すっごく優しくていい人なのに

メティ

あら、似たもの同士だから共感するのかしら?

ミリータ

あぅぅ……そんなつもりじゃなかったのに

キューテ

うふふ、たしかに母はいろんな壁にぶつかったかもしれません
それでも姫様とスィークさんと出会って……

キューテ

そして、父と結婚し……幸せになったわけですから、不幸というわけじゃありませんよ

ミリータ

ほんと、いい話だよね~

メティ

それで、ハーフの貴女はどうなのかしら?

キューテ

わたしですか?

ミリータ

うんうん、わたしも知りたいな

キューテ

そうですね、わたしのハーフとしての特性……といっても大したものじゃないんですが

キューテ

わたしも魔法の素養を持って生まれてきたんですが、体内に魔力を溜め込みやすい体質でして……

キューテ

ですから、時々、魔法を使って魔力を放出する必要があるんです

メティ

あら、他のふたりと比べると楽なものね

キューテ

はい、ミリータちゃんやヴェーラちゃんに比べたら些細な問題ですよ

ミリータ

わたしだって大変なことは多いけど、なんとかやっていけてるし

メティ

そういえば、ルピュアさんが刃物を集めるのって光物だからなんでしょう?
それってハーピーの習性かしら?

キューテ

あれも母の個人的な趣味だと思います、わたしは光物なんて集めていませんし

ミリータ

そういえば、メティさんも光物を集めてたよね?

メティ

ええ集めているわよ
武器なんかとは違う、もっと素晴らしい光物

メティ

お金という絶対的価値の光物をね!
おーほっほっほ!

ミリータ

話題を振っといてなんだけどさ……
メティさんってどんな話をしても、結局、お金の話に持ってっちゃうよね

メティ

それがわたくしのアイデンティティだもの

キューテ

うふふっ、それでは、この辺りで授業を終えましょうか

メティ

それでは、起立

メティ

ミリータ&キューテ

ありがとうございました

メティ

着席

キューテ

次回の『教えてキューテ先生』もよろしくお願いします

番組終了

楽屋
『遺伝』

ミリータ

あ、そういえばキューテさんってメガネを集めてるってことはないの?

キューテ

なんですか急に

ミリータ

メガネって光物って、言えなくもないよね

キューテ

たしかにそうですけど、さっきも言いましたが、わたしは何も集めてませんよ

キューテ

そもそも母がどうして武器なんて集めているのか理解できませんでしたから

ミリータ

スピード狂は遺伝しちゃったのにね

キューテ

……返す言葉もありません

メティ

他にも遺伝してるところあるわよ

キューテ

え、なんですか?

メティ

苦労性なところも似てるわね
あぁ、これは父親からも授かったのかしら?

ミリータ

あはは……たしかにわたしと同じくらい振り回される側だよね

キューテ

それは単に振り回す側が多すぎるんです!

メティ

起立、礼、着席

メティ

教えてキューテ先生!

メティ

学生のみなさん、ごきげんよう
わたくし、当番組の司会兼学級委員を務めるメティ=エリファスよ

キューテ

どうも、みなさんこんにちは
この番組で教師を勤めさせていただきます、キューテ=オトカネです

メティ

ふふっ、キューテさん喜びなさい
前回の放送が各教育関係の機関から高評価を頂いたわ

キューテ

それは本当ですか?
うふふ、とても恐縮ですね

メティ

ふふっ、番組を続けれていれば、番組で紹介された内容を書籍化できるかもしれないわよ

キューテ

それって、魔物図鑑ってことですか?
その類の本なら図書館に山のようにありますよ

メティ

もちろん、差別化を図るわ!
そうね………ふふっ、表紙にキューテさんのグラビアを載せるっていうのはどうかしら?

メティ

タイトルはこうよ!
『教えてキューテ先生~魔物の秘密教えちゃいます~』ってこれはいけるわ

キューテ

なっ……嫌ですよ!
どうしてわたしが……そもそもそういった詐欺みたいな本は出版させませんよ!

メティ

いいじゃない、別に減るものでもないし……
むしろ、お金も知名度も増えて万々歳でしょう?

キューテ

万々歳じゃありません!
いいですか、健全な番組がどうして有害図書を発行するんですか!
まず、そこが問題です!

メティ

有害図書って貴女ね………
まぁいいわ、今は頭の片隅にでも置いときなさい

キューテ

絶対にやりません

メティ

……それじゃ、今回の学生を呼ぶわ、この方よ、どうぞ!

パチパチパチ

シレーネ

ケンタウロス族のシレーネ=セントールよ!
ほら、見なさい! 尻尾を自由自在に操れるでしょ!

シレーネ

………つまり、そういうことよっ!

メティ

あらシレーネさん、前回の放送をしっかりチェックしたようね………
でも、どうして怒ってるのかしら?

シレーネ

見たから怒ってるのよっ!
……危うく、ケンタウロスとクイーンビーとの間で戦争が起こるところだったわ

キューテ

………あの内容だとそうなっても仕方ありませんね

メティ

前回の放送で視聴者の長年の誤解が解けたかもしれないでしょう
むしろ、抗議も恐れず放送したことを感謝して欲しいわ

シレーネ

なに言っているの!
そもそも、あんなこと疑問に思うこと事態ありえないのよ

キューテ

シレーネさん……番組のこととはいえ、本当にすみませんでした

シレーネ

あ、いや……

メティ

ほら、キューテさんがここまで謝っているんだから、貴女も許してあげたらどうかしら?

シレーネ

わたしは別にキューテさんを責めてるんじゃなくて……………
って、むしろ、メティが謝りなさいよ

メティ

別に頭ぐらい下げてもいいわよ………
ただし、わたくしの謝罪は高いわよ、おーほっほっほっほ!

シレーネ

もういいわ……キューテさん、番組を始めてちょうだい

キューテ

ふふっ、シレーネさんも丸くなりましたね

シレーネ

諦めることを学んだのかもしれないわね……

キューテ

はい、それでは授業を始めていきますね
さて、シレーネさん何か知りたい種族とかはありますか?

シレーネ

……そうね、どうせだからビビの種族について聞いておきたいわ

メティ

戦争前の下調べかしら?
それとも復讐なのかしら?

シレーネ

違うわよ
友人が女王をやっている種族のことぐらい、ちゃんと知っておきたいだけよ

キューテ

ふふっ……わかりました、クイーンビーについてお話しましょう

【クイーンビー】

キューテ

クイーンビーは、名の通り、蜂ととても似た生態を持つ魔物です

キューテ

特にその独自の社会構成は蜂そのもので、生まれながらに上下関係を持っています

シレーネ

その頂点があのサボり魔のビビなったんだから、世の中って本当にわからないわ

メティ

女王がサボっても、下がしっかりしてたら大丈夫ってことよ

キューテ

いえいえ、そうは言いますけど、ビビさんもちゃんと女王をされてるんですよ

シレーネ

わたしもそう信じてたわ…………
前回の放送であの質問を聞くまでわね

メティ

たしかに、一族を統べる女王の質問ではなかったわ

キューテ

そ、そうですね…………

キューテ

さて、クイーンビーの特性は様々ありますが、主な特徴は身体に羽と針があること、また、体内で毒を生成し、針を通して相手に送り込むことが出来ます

シレーネ

この毒ってクイーンビー独自のものなのよね?

キューテ

ええ、そうです
毒を作るのもクイーンビーで、解毒薬を作るのもまた、クイーンビー……

キューテ

ですが、回復に時間はかかりますが、わたしでも解毒することは可能ですね

メティ

残念だわ、解毒が自分でしかできないのなら、いろいろと使い道があったのに……

シレーネ

……さすが悪魔ね、いや、さすが金貸しというべきかしら

メティ

お金を稼ぐ知恵よ

キューテ

また、女王、もしくはその候補者が生殖行為を行った際、分泌される体液からその一族にしかわからない特有のフェロモンが出るそうです

キューテ

そして、そのフェロモンを感じ取った一族のものは、女王を祝福するために周囲に集まる習性があります

シレーネ

…………ビビも大変ね

メティ

ところで、その女王っていうのはどういう基準で選ばれるのかしら?

キューテ

基本的には次期女王候補から選ばれます
その女王候補は生まれながらに決まっているので、候補者の選出方法はないんです

キューテ

それから…………現在は廃れたようですが、以前は老いた現女王を排除した女王候補が女王になる……そんな陰惨な世襲方法をとっていたそうです

シレーネ

たしかに、それは陰惨ね……実の母親に手を掛けるなんて

メティ

女王が殺されるのはわかったわ
それで、男性が権力を持つことはないのかしら?

キューテ

今のところはありませんね………クイーンビーは男性というものに対する価値観が他の魔物とは大きく違いますから

シレーネ

ああ、そういえばビビもそんなこと言ってたわね

キューテ

男性は精を捧げる一族繁栄の道具として扱われて、さらに、男性は共通財産であり、女王の伴侶であろうと一族の女性から誘惑を受けます

メティ

……共通財産、とても嫌な言葉だわ

キューテ

でも、現女王、ビビさんがクイーンビーに新しい風を吹き込んでいますから、価値観も変わってきているようです

キューテ

ふふっ、ビビさんの話を聞くたびに、わたしは新しい時代を呼び込む風があの学園で生まれたことを誇りに思うんですよ

シレーネ

何言っているのよ、その風を生み出すことに一躍買ったのは、キューテさんでしょう

キューテ

シレーネさん……

メティ

なにを湿っぽくなっているかしら?
まだ番組は終わってないわ、そういうのは最後になさいって言ってるでしょう

シレーネ

貴女って空気読むってこと知らないの!?

メティ

わたくしもちゃんと空気ぐらい読めるわ
だからこそ、番組の序盤で湿っぽくなられても盛り上がらないって言ってるのよ

シレーネ

そのセリフがもう空気読めてないのよ

キューテ

……それでは、次はどの種族について知りたいですか?

シレーネ

もちろん、次はライバルのことを知りたいわ

キューテ

わかりました、スキュラの話をしましょう

【スキュラ】

キューテ

海生の魔物の中で、凶暴かつ攻撃的な種族として人間から恐れられているのがスキュラですね

キューテ

見た目の特徴は下半身が8本の蛸足で、伸縮可能、その上、千切れても再生可能な優れものなんです

シレーネ

たしか、ヴェーラの足って食べれるのよね?

キューテ

ヴェーラちゃんの母、ラキスさんも自分の足をおつまみにしてましたね
なんでも滅多に市場に出回らない高級な珍味らしいですよ

メティ

な、なによそれ、永久機関の上に、高級食材って!
売ったら大もうけできるわ!

シレーネ

さすがに限界はあるでしょ

メティ

でも、海生でありながら地上でも苦労なく生活できるなんて、もう言うことなしだわ

キューテ

……だからといっていいことばかりじゃないんですよ

キューテ

スキュラは本能を胸のうちに抑えつけていて………
海に触れることで呼び覚まされ、人間を襲ってしまうこともあります

キューテ

抑えつけられない本能……これは魔物が抱える悩みの一つですね

シレーネ

人間との共生を目指すこのご時世………その本能はとても厄介ね

メティ

でも、その歯止めのきかない本能って、ヴェーラさんには受け継がれていないわよね?

キューテ

はい、幸いヴェーラちゃんがハーフとして生まれたおかげで、この本能は受け継がれていないようです

キューテ

ですから、海に入ったところで暴れ出すようなことはありませんが………年中暴走してますね

シレーネ

………年中じゃないわよ、年に数日、暴走しない日があるわ

キューテ

そうでしたね………
ヴェーラちゃんは、能力が人間並みに落ちることがあります

シレーネ

その日になると、妙にピリピリしてたわ………ヴェーラも、わたしたちも……

キューテ

わたしとミリータちゃんも同じハーフですが、悩みもそれぞれに違います

キューテ

ただ、ヴェーラちゃんには自分の人間としての弱さを認める本当の強さを持ってますから

シレーネ

ふふっ、わたしにとってヴェーラは生涯戦い続けるライバルだもの、それぐらい当たり前よ

メティ

スキュラには他に弱点らしい弱点とかないのかしら?

キューテ

弱点ですか………あとは卵生ってことと……
あっ、種族的に惚れっぽいという話を聞いたことがあります

シレーネ

あの真っ直ぐな性格で惚れっぽいところが厄介なのよ………
衆目気にせず、抱きついたりできるし……

キューテ

はぁ………わたしもあれだけガツガツいけたら………孫の顔も見せられるんですが……

メティ

そういうのはどうでもいいわ
それより、さっさと次の魔物を紹介してくれるかしら?

キューテ

あはは…………

キューテ

それでは、最後はハーフ繋がりの幼馴染、ミリータちゃんたちラミアについて話をしましょうか

メティ

いいわね、ラミア……ぜひ、お願いするわ

【ラミア】

キューテ

ラミアは下半身が蛇となっている種族で蛇と似た性質を持っているのが特徴ですね

シレーネ

ミリータって普段は温厚だけど、狩りになると目の色変えたり、暴走して誰かれ構わず石化させたり……意外と戦いに対するポテンシャルは高いわよね

キューテ

そうですね、ラミアは戦闘に特化された特性をたくさん持っていますね

キューテ

まず、ラミアに備わっている恐るべき能力といえば、その瞳に宿る魔眼ですね

キューテ

魔眼と呼ばれるものは様々ありますが、ラミアが持つ魔眼は、見たものを麻痺させたり、石に変えることができる能力があります

メティ

……見たものってことは、生物以外は石にならないのかしら?

キューテ

うーん、どうなんでしょうか………石にされた場合、着ている衣服も石になりますし……

メティ

厄介な能力よね

キューテ

また、狩猟が得意な種族ですね

シレーネ

たしかに、ミリータも狩りに出るときはいつも手ぶらよね?

キューテ

はい、狩りは肉体を使います
拳、尻尾、牙を用い、尻尾を叩きつけ、締め上げ、噛み付く……

キューテ

これが狩りの基本……ということをミリータちゃんのお母様がお酒の席で熱く語っていました

メティ

フッ、非効率だわ

シレーネ

最初に蛇としての特性って言っていたけど、それは他にどういうものがあるのかしら?

キューテ

どういう周期でそうなるのかはわかりませんが、ラミアは蛇と同様、脱皮をしますね

キューテ

あとは、寒さに弱く、本能的に冬場は冬眠したくなるようです
純粋なラミアは、それを何とか押さえつけることができるんですが……

シレーネ

ミリータはそれがハーフだからできなかったのよね?

キューテ

そうなんですよ………留年もそれがきっかけとなったぐらいですから

キューテ

ミリータちゃんの場合、ハーフとしてラミアの強すぎる能力が抑えきれず、冬場は冬眠し、自分の魔眼の制御ができないなど、いろんな問題を抱えています

シレーネ

暴走したら、見境なしに石化させるものね

メティ

彫刻だらけになるわね

キューテ

子どもの頃はミリータちゃんが暴走するたびに、大惨事が起こりまして………

キューテ

お師匠様と姫様が借り出されていました……

シレーネ

ミリータが石化させたときは、解呪するために薬が必要なのよね?

キューテ

ええそうですね
本来、純粋なラミアは自分の意思で石化を解けるんですが、ミリータちゃんはそれができないので

キューテ

そのため、ミリータちゃんの家には、いつも常備されてました

キューテ

わたしたちハーフの中でも、ミリータちゃんが誰よりも自分の血に翻弄されていますからね

シレーネ

留年の原因になるぐらいだものね……

キューテ

ですが、あのとき、出席日数が足らなかったのは、ヴェーラちゃんに連れ回されたことも原因ですから

メティ

ヴェーラさんの幼馴染として育ったのがミリータさんの最大の不幸じゃないかしら?

キューテ

あっ、でも、ヴェーラちゃんがミリータちゃんを連れ回すのは決まって冬だったりするんですよ

キューテ

そして、行き先はいつも南国の海………
ミリータちゃんの冬眠への配慮ですね

メティ

あら、意外ね……
ヴェーラさんだったら何にも考えずに振り回してそうなのに

キューテ

ヴェーラちゃんもいいとこあるんですよ………
普段は暴走の影に隠れて見えないんですが……

シレーネ

………コメントを控えるわ

キューテ

あと、これは俗説なのでなんともいえませんが、ラミアは執念深い種族だと言われていますね

キューテ

実際にミリータちゃんの両親が結ばれたのも、子どものときの約束を守り続けたからという話ですし、満更嘘ではないかもしれませんね

メティ

あら、わたくしも執念深いわよ

シレーネ

貴女はお金に対してだけでしょ?

メティ

当然!
それ以外に何に執念を燃やせばいいのかしら?

キューテ

ふふ、メティさんらしいですね

メティ

さて、第2回の内容はどうだったかしら、シレーネさん?

シレーネ

とても勉強になったわね

メティ

あら、それならよかったわ
あとで抜き打ちでテストするからがんばりなさい

シレーネ

な!?
そ、そんなこと聞いてないわよ

メティ

もちろん、嘘だもの

シレーネ

一瞬、心が学生時代に戻ったわ

キューテ

うふふっ、それでは、次回の『教えてキューテ先生』もよろしくお願いしますね

メティ

それでは、起立

メティ

シレーネ&キューテ

ありがとうございました

メティ

着席

番組終了

楽屋
『妹』

シレーネ

ヴェーラの性格は種族的なものなの?

キューテ

いえ、ヴェーラさんのお母様、ラキスさんは……ふ、普通の方ですよ

メティ

普通とは何なのか、議論の余地がありそうね

キューテ

ラキスさんもあのヴェーラちゃんが、身を振るわせるほどの方ですから…………
普通じゃないかもしれません

シレーネ

妹がいたわよね?

キューテ

はい、います

メティ

ヴェーラさんに妹がいたの!?

キューテ

わたしにも腹違いの弟妹たちがいますよ

メティ

…………

メティ

起立、礼、着席

メティ

教えてキューテ先生!

キューテ

みなさん、こんにちは
この番組で教師を勤めさせていただきます、キューテ=オトカネです

メティ

学生のみなさん、ごきげんよう
わたくし、当番組の司会兼学級委員を務めるメティ=エリファスよ

キューテ

カメラの前で授業するなんて、ちょっと緊張しますね

メティ

いつも通りやれば問題ないわ、むしろ違うことをしようという考えは止めておきなさい

キューテ

ふふ、頑張ります

メティ

さて、この番組は毎回ゲストをお呼びして、キューテ先生から魔物の生態や種族について教えてもらえる教育番組よ

メティ

貴女、魔物知識には自信あるのよね?

キューテ

もちろん、ありますよ
学園に通う学生の生態ぐらい知らなければ薬師くすし失格ですから

メティ

そうね、患者のことがわからない医者なんてヤブ以外のなにものでもないわね

キューテ

……ただ、魔物はその一族にしかわからない思想や生態がありますし、それを秘匿していることも多いですから

キューテ

書物で得た知識が一概に正しいということはありませんので、情報を鵜呑みにしすぎないでくださいね

メティ

何言っているのかしら?
これは教育番組なの、嘘は許されないわ

キューテ

そのときは一緒に頭を下げてくださいね、メティさん

メティ

嫌よ、自分の言葉には自分で責任を持ちなさい

キューテ

え?

メティ

契約書にもそういう風に書いておいたでしょう?

キューテ

えっと………書いてあったんですか?

メティ

あら、書いてあったわよ、2枚目に

キューテ

あの紙、2枚あったんですか!?

メティ

あったわ
それをちゃんとめくらなかった貴女が悪いんだから、わたくしは知らないわよ

キューテ

ど、通りで紙が分厚いわけです……

メティ

さて、そろそろゲストを呼びたいんだけど……サボらず来てくれるかしら

キューテ

うーん、サボり癖のある方に、心当たりが多すぎて誰だかわかりませんね

メティ

ふふっ、さて、今回のゲストはこの方よ!
どうぞ

パチパチパチ

ビビ

くくっ、サボらずに来てやったぞ、キューテ先生

キューテ

ふふっ、なるほど
あなたでしたか、ビビさん

ビビ

ビビ=クィン=アナフィラキシーだ……よろしく頼む

メティ

あら、サボらなかったのね

ビビ

ふっ、さすがに番組はサボらんさ…………

ところで、あたしの種族のこともこの場で語られるのか?

メティ

ゲストの種族なんて語ったら、お互いにやり辛いでしょう?

キューテ

そうですね、わたしとしてもその方が話しやすいです

ビビ

くくっ、目の前に当人がいるのに、種族の批判なんてできるわけないからな

キューテ

そ、そういう意味じゃありませんよ!
ほら、やっぱり、主観と客観は違いますし

ビビ

いつかの勉強会のように、過激にやってくれても…………

ビビ

いや、今のはなしだ、忘れてくれ

メティ

勉強会ね……ふふっ、教育番組に最適な響きだわ!
キューテさん、その勉強会のようにやってくれるかしら!

キューテ

………いいんですか?

ビビ

悪いことは言わない……メティ、止めておけ
こんなところで歴史に残る放送事故なんて嫌だろう?

キューテ

さ、さすがにそこまでは………
ただ、子どもには見せない方がいいかもしれませんね

メティ

…………普通にやりましょう

キューテ

ふふ、それでは授業をしていきましょうか

ビビ

キューテ先生、さっそくだが質問いいか?

キューテ

ビビさんからの質問なんて……ふふっ、成長しましたね
どうぞ

ビビ

そもそも、魔物っていうのはどれだけの種類がいるんだ?

キューテ

………答えにくい質問がきましたね

キューテ

実は魔物がどれだけの種族が存在しているのか、正確な数はわかっていないんです

キューテ

魔物の中には秘匿性の高い、交流を避けている種族なんかも多いですから、数えるのも難しいんですよ

ビビ

秘匿性が高い魔物といえばリンの種族か?

キューテ

はい、確かに竜族は秘匿性が高いことで有名ですね
せっかくですし、竜族の話をしましょうか?

メティ

隠れ里で外と交流を避ける魔物の実態……それいいわね!
ぜひ、お願いするわ

キューテ

ふふっ、わかりました

【ドラゴニュート】

キューテ

竜族は、尾と翼、角や鱗などを持つ二足歩行する竜で、ドラゴニュートと呼ばれています。

キューテ

魔物の中でも古くから存在する種族ですが、その生態について書かれている書物はほとんどありません

キューテ

ただ、一般的に語られているのは、竜族は魔物の中でも飛びぬけた身体能力、頑強な肉体を持つ種族とされています
長命な種族であるという記述もありますね

キューテ

さらに、背中の翼で飛翔も可能で、口から火炎を吐くことも可能なんです

ビビ

リンのやつも、病弱だったにも関わらず、ずば抜けた能力を持っていたからな

メティ

それで、リンさんの腹黒いところは種族的なものなのかしら?

キューテ

えーと、わたしが読んだ本には、そういったことは書いてなかったですね………
あの黒さはリンさん特有のものではないでしょうか?

メティ

実は竜族って腹黒さを隠すために、秘匿しているのかもしれないわね

ビビ

はは、実に嫌な一族だな
ぜひとも、このまま隠れ住んでてくれるとありがたい

キューテ

………苦情が来てもしらないですよ

ビビ

なに言ってるんだ、キューテ先生
あの竜族のことだ、今頃、抗議の決起集会でも開いてるだろうさ

キューテ

あのメティさん、ここはカットでお願いしますね

メティ

わたくしはね、大事と小事を選ばなければならない状況なら大を選ぶわ

ビビ

ほう、その心は

メティ

スポンサーがいいと言えばわたくしは放送するわよ
そして、責任はキューテさんに押し付けてやるわ!

キューテ

りゅ、竜族のみなさん……
放送をご覧になってましたら、あの早まった行動はやめてくださいね

メティ

さて、次の説明に移ってくれるかしら?

キューテ

…………次は、特殊な魔物についてお話しましょう

ビビ

特殊な魔物か、これはぜひとも聞きたいな

メティ

いるでしょう?
近くに飛びっきり特殊なのが

ビビ

ん?
………ああ、コメットか、確かにあいつは特殊だな……いろんな意味で

【ドール】

キューテ

ドールという種族は、魔物の中でも非常に特殊な種族です

キューテ

詳しいことは当のドールですらわかっていないことが多いそうですが、一応、書物には残っているんですよ

ビビ

ふむ、コメットも自分のことは知らないようだったな

キューテ

ドールは基本的に人間と同じ性質を持っていますが、食事を必要とせず、また生殖行為も本来の意味をなしません

メティ

あら、それならどうやって生まれてくるのかしら

キューテ

いいところに気付きましたね、メティさん
その『どうしてドールは誕生するのか?』という問題こそ、ドールの特殊性があるんですよ

キューテ

ドールについて書かれた書物によれば、『想いが器に募って誕生する』と書かれています

ビビ

なるほど……芸術家が作品に魂を込めるというからな

キューテ

わたしも子どもの頃に、物を大事にすれば、そこに魂が宿るという話を父から聞いたことがあります

キューテ

ものに宿った魂がドールという魔物を生み出したのかもしれませんね

メティ

わからないわね………
魂が宿ったからって、どうして動き出すのかしら?

キューテ

逆にわたしたちが動く理由もわかりませんよね?
だから、答えは誰にもわかりませんよ

キューテ

ただ言えることは、ドールが想いによって生まれた存在なら、動く理由もまた、我々と同じ”想い”が動力になっていることでしょう

ビビ

ふっ、いい話じゃないか

メティ

あら、そうかしら……わたくしにはよく分からないわ

ビビ

くくっ、メティはお金への想いから動いているんだろう?
それと同じだな

メティ

何を言っているの、当然のことでしょう!
それ以外で動く理由なんてないもの

キューテ

メティさんもお金以外で動く理由が見つかるといいですね

メティ

そういう話はいらないわ
それより、さっさと次の魔物に移るわよ

キューテ

ふふっ、それではビビさん、教えて欲しい魔物の種族とかありますか?

ビビ

ぜひ、我が一族のことを聞かせてもらいたいが、どうだろう?

キューテ

あはは……別の種族でお願いします

ビビ

くく、仕方ないな
それなら、シレーネの種族、ケンタウロスはどうだ?

キューテ

ケンタウロスですか、わかりました

【ケンタウロス】

キューテ

魔物は総じてプライドが高い生き物で、由緒ある種族ほどその傾向が強いんですが……

キューテ

ケンタウロスはその中でもずば抜けてプライドが高く、伝統を重んじる種族です

ビビ

古今東西、魔物も人間も格式や世間体を重んじる存在だろ?

キューテ

言ってしまえばそうなんですが………

キューテ

ケンタウロスはそのプライドの高さから、背中に乗せるのは自分が認めたものだけ、という古くからの決まりがあるそうです

ビビ

くく……懐かしいな
シレーネも当初は背中に乗せることを意地でも嫌がっていた

メティ

それは残念だわ……
ケンタウロスを移動手段にできれば、一儲けできると思ったのに

キューテ

念のために言っておきますけど、絶対に無理ですよ

メティ

わかってるわ
さっさと話を進めなさい

キューテ

えっと……ケンタウロスはそのプライドの高さから、好戦的であり対抗心の強い種族で、棒術や弓矢の扱いにも長けています

メティ

棒術や弓矢ね、まるで狩猟するような武装だわ

ビビ

だが、シレーネが狩りをしてる姿なんて見たことないな………
それにあいつは肉よりも野菜派だ

キューテ

扱っている武器はあくまで多種族との交戦用なのかもしれませんね

メティ

でも、好戦的って言っても竜族とかには及ばないんでしょう?

キューテ

そうですね
ケンタウロスも身体能力は高いですが、魔物の中には出鱈目なものもいますから

ビビ

ケンタウロスのことで、今までずっと聞きたかったことがあるんだが………聞いてもいいか?

キューテ

なんですか?
わかる範囲でお答えしますよ

ビビ

ケンタウロスは………

キューテ

はい

ビビ

トイレのあとどうやって―――

キューテ

は、はい?

ビビ

尻を拭いてるんだ?

キューテ

えぇっ!?

メティ

な、何を言い出すのよっ!!
キューテさん、メガネがずれたわ!

ビビ

シレーネは自分の規制ピー規制ピーには手が届かない

メティ

げ、下品なこと言わないでくれるかしら!?
ああもう、修正しないといけないでしょう!!

ビビ

長い間、同じ学園、同じ寮で暮らしてきたが……結局、聞けずじまいだった

ビビ

ぜひ、この謎を白日の下にさらして欲しい

メティ

そんな謎、闇に葬りなさいよ

キューテ

学園には魔導式温水洗浄便器が取り付けられてますよね?

ビビ

だったら外はどうなんだ?

メティ

やめなさいって言ってるでしょう!!

キューテ

…………えーと?

ビビ

まさかとは思うが拭かな―――

メティ

言わせないわよ!

ビビ

しかし、それ以外に手立てはない

キューテ

……………はっ!
肝心なことを説明し忘れていました!
ケンタウロスは尻尾を手のように自由に動かすことが可能なんですよ

キューテ

だから、紙を巻いてから尻尾で掴むことも可能です!
間違いありませんよ

ビビ

くくっ……あはははは!
気付かれてしまったか、残念だよ

メティ

……貴女、分かってて聞いてたのかしら?

ビビ

シレーネとは長い時間をともにしたんだ、分からないはずないだろ?

キューテ

ビ、ビビさん!
あなたも女王なんですから、もっと慎みをですね!

ビビ

はは、すまない……ついついからかってしまった

ビビ

しかし、いい勉強になったよ……キューテ先生も授業の腕を上げたんじゃないか?

キューテ

腕を上げたもなにも、あなたは授業中、眠っていたじゃありませんかっ!

ビビ

だからだよ、キューテ先生
あたしはおもしろい授業は眠らないからな

キューテ

…………はぁ、誇っていいのかわかりませんよ

メティ

全体的に見ればいい走り出しだったわ!
………最後の内容はどうかと思うけど

ビビ

キューテ先生はどうだったんだ?

キューテ

そうですね、わたしはこの番組を通して、魔物や人間が持っている誤解を少しでも解ければいいと考えているんです

メティ

貴女がどういった話をするかはお任せするわ
ただし、視聴率のことだけは意識しなさい!
いいわね!

キューテ

メティさんって、感動に水を差すの得意ですよね……

ビビ

空気が読めないだけだろ

メティ

どうして責められてるのかわからないけど、まぁいいわ!
次回の『教えてキューテ先生!』もよろしく頼むわよ

メティ

それでは、起立

メティ

ビビ&キューテ

ありがとうございました

メティ

着席

メティ

それでは、学生諸君、ごきげんよう

番組終了

楽屋
「トイレの後に」

ビビ

くくっ、シレーネこの放送を見たら怒るだろうな

キューテ

もちろんですよ、あんな失礼なことを質問してくるなんて………

キューテ

もしかして、ケンタウロスからの苦情なんてこともあるかもしれませんね……

メティ

ところで、その尻尾はどれだけ使い勝手のいいものかしら?

ビビ

尻尾を使っているところ、あまり見たことないな

キューテ

普段は手を使いますからね

ビビ

くくっ、だから、シレーネが尻をふけないと思っているやつらも多いはずだろ?

キューテ

いないと思いますよ